コラム

南アで見えた「日韓」の明るい未来

2010年06月30日(水)18時50分

今週のコラムニスト:コン・ヨンソク

 サッカーワールドカップ南アフリカ大会はクライマックスに向けて進んでいる。だが、日本と韓国にとってのクライマックスはやはり、決勝トーナメント進出だった。

 自国開催以外で、日韓両国はともに初の決勝トーナメント進出という快挙を成し遂げ、世界中のオッズメーカたちを見事に嘲笑ってみせた。日韓の代表を、アジアのサッカーをバカにしてきた「専門家」たちに、「ざまあみろ」といってやりたい。

 今回、日韓はともに厳しい組に属しながら、審判の手助けや相手の明らかなミスのおかげではなく、実力で勝ちぬいた。韓国は初戦で、04年UEFA欧州選手権の覇者ギリシアを内容面でも圧倒。アジアのチームがヨーロッパのチームを終始圧倒した歴史的勝利でもあった。

 NHKの解説者である山本昌邦は、韓国が先陣を切ってアジアを引っ張ってくれたと高く評価した。他のメディアも韓国の快勝やお馴染みのストリート応援(パブリック・ビューイング)を連日のように報じ、日本も続けと代表と国民を鼓舞した。

 結果は見てのとおり、日韓はシナジー効果を生みながら共にこれまで越えられなかった壁を打ち破った。韓国は前大会でも1勝1敗1分けで勝ち点4だったが、得失点差などで苦杯をなめている。いつも国際大会ではあと一歩のところで苦杯をなめてきた韓国だが、今度は世界の壁を「実力」で超えることができた。

 しかも今回のチームは、最大のハンデとまで呼ばれた監督の下で戦った。選手たちは史上最高のチームといわれたが、監督は史上最低といわれていた。予選では熱心なサポーターからは応援拒否も見られたほどだ。

 案の定、ホ・ジョンム監督は初戦で大活躍したチャ・ドゥリ(監督のライバルであるチャ・ボムクンの息子)を気に入らないと言って2戦目では先発から外し、韓国サッカー協会の重鎮の息子であるオ・ボムソクを起用。結果的にアルゼンチン戦では、彼が狙われて大敗した。

 だが、日本代表がオランダと互角の戦いを演じ、決勝トーナメント行きの可能性が高まったことが監督に冷静さを取り戻させたのか、最後のナイジェリア戦にはギリシア戦と同じメンバーで臨み、辛くも逃げ切った。以前韓国代表の監督を務めたフース・ヒディンクが今回のチームを率いていたら、組み合わせからいっても韓国は、ベスト4まで行けたのではないかと思う韓国サポーターは多い。

■パク・チソンが日本にもたらしたもの

 一方の日本を見てみると、本田圭佑の無回転シュートはアジアのサッカー全体をアップグレードさせた。韓国の若い選手や子供たちの間でも、彼が見せた無回転シュートへの熱望は高まるだろう。

 結果的に、W杯前に行われた「日韓戦」は日本に大きな恩恵をもたらしたのではないだろうか。試合に負けた日本のサポーターが「パク・チソンを生でみられてよかった」と自嘲的に話していたように、パク・チソンの存在は日本代表にとっても大きかった。

 岡田監督はW杯での戦い方について、豊富な運動量に裏打ちされた「ハエ」のようなディフェンスで相手にプレッシャーをかけたいと話した。これは、世界の舞台で結果を残すパクを意識したものといえるだろう。3つの心臓をもつといわれ、豊富な運動量で相手のキープレーヤーを困らせるパクのあだ名は「モスキート(蚊)」だ。

 豊富な運動量、献身的な動き、頭脳的なプレーを通じて個人技とフィジカルの劣勢をカバーし、「目に見えない」活躍を通じてチームの勝利に貢献してきたパク。彼はまさにアジアを代表するサッカー選手である。だが私の印象では、彼のよさをより高く評価しているのは、韓国よりも日本のサッカー関係者やファンのように思う。それは、もちろん彼が元Jリーガーだということも大きいだろうが、それだけではなさそうだ。

 日本では、先に挙げたパクの地味な持ち味が高く評価されているのだ。そして、そうした特長を持つパクを、世界で通用するアジア人プレーヤーのモデルとして見ているのだ。

■日韓関係は宿敵からライバルへ

 ここで韓国と日本が互いに切磋琢磨し、ともに高め合う関係から生まれる「韓日流」の形が見えてくる。日本の技術力と柔軟さに、韓国の運動量とタフな精神力がミックスすれば、世界基準に達することができるのだ。それを今実現しているのが、パク・チソンであり、イ・チョンヨンであり、本田圭佑なのだ。

 中田英寿が先陣を切り、パク・チソンがアップグレードさせたアジアのサッカー。この進化を止めないためにも、日韓がアジアを引っ張っていくのだ。以前、キム・ヨナと浅田真央の関係についても書いたことがあるが、まさに日韓は「宿敵」の関係を越えて、切磋琢磨できるよきライバルの関係に成熟しつつある。韓国のメディアも、今回の日本代表の戦い方に学ぶべきとの声を挙げた。

 そのためにまずは、日韓戦を定期的にやるといい。祝祭にしてしまうのだ。そこに北朝鮮を加えてもいい。北朝鮮代表チョン・テセの涙も、個人的には今大会最大のハイライトだった。

 アジア・チャンピオンズリーグで常に高いレベルでしのぎを削っているJリーグとKリーグ。いっそ、プロ野球のセパ交流試合のように、公式の交流試合を組み込んでしまうのはどうだろう。

 実は現在、僕は『「韓流」と「日流」――文化から読み解く「日韓新時代」』(NHK出版)というタイトルの本の執筆の大詰めにさしかかっているのだが、今回のW杯の結果も、この本の趣旨と見事に合致している。やはり日本と韓国のフュージョンとコラボを通じた「日韓流」こそ、新たな時代を作ると提言したい。

 僕の執筆意欲まで後押ししてくれた韓国代表とSAMURAI BLUEよ、見事なアシストをどうもありがとう! 次はベスト8行きましょうよ!

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英下院、ビクトリア朝時代の中絶処罰の法令修正へ 女

ビジネス

中国、人民元の基本的安定維持へ 外的ショック回避=

ビジネス

EU、証券化規則の緩和を提案 企業の資金調達促進へ

ワールド

NY市長選候補を逮捕、移民裁判所で被告に同伴中 数
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 3
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火...世界遺産の火山がもたらした被害は?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 6
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 7
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 10
    【クイズ】「熱中症」は英語で何という?
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story