コラム

ちょっとおかしな日本語講座

2010年03月30日(火)16時02分

今週のコラムニスト:コン・ヨンソク

 ハーイ! 来日したての留学生のみなさん! 4月に新学年が始まり、桜と花見とプロ野球をこよなく愛する日本へようこそ! さて今日は、みなさんがこれからの日本での生活で遭遇するであろう、「ちょっとおかしな日本語講座」の時間です。

 まず、手始めにみなさんのことをいう外国人に対する呼び名から。今ではカタカナ言葉にもなるほど、普及率を上げているのが「ガイジン(外人)」。おばあちゃんなどは優しく「さん」づけをしてくれます。内と外を明確に区別する島国らしい発想かもしれません。

 でもなぜか、このカテゴリーに含まれるのは、欧米系およびアフリカ系の人たちですね。アジア系は含まれず、アラブや南米も微妙ですね。おそらくかつての「異人」という言葉から来ているのではないかと思います。神戸に行ってごらんなさい。欧米の人たちは、昔は異人だったというのがよくわかります。

 次に、みなさんにとって身近な「先生」という言葉。でもなぜか日本の政界では、政治家も先生と呼ばれています。彼らが国民や支持者に何かを教えてくれる存在とは思えないのですけどね。ましてや最近では「政治家」という呼び名が似合う方も少ないですよね。あっ、そういえばありました、彼らが教えてくれたもの。困った時の決め台詞、「記憶にございません」。

 政治家の先生は、カメラが向けられている時でも、平気で記者相手にため口をききます。先生がそれでいいんでしょうかね? ため口といえば、この国の人は外国人とわかると急にため口になり、場合によっては命令調になることもあるので気をつけてください。

 敬語が定着している国の人にとってこれは一番むかつくことでしょう。日本語を学ぶときは敬語から学ばされるのに、納得がいかないですよね。でもそこで感情を露わにしてはいけません。すぐに、「野蛮」とか「瞬間湯沸かし器」だとネットで叩かれます。この国では感情的になった方が負けです。この国で感情的になることが許されるのは、日の丸を背負った時のイチローだけですから。

■反省会では誰も反省なんかしない

 続いては、これまた身近な「勉強」という言葉。日本人はとにかく勉強が大好きなようです。勉強嫌いの私がつらいわけです。政治家や官僚たちが大好きな「勉強会」については、日本語学校で学んだことでしょう。ですが、勉強には私もつい最近まで知らなかった特別な意味もありました。

 以前、車のディーラーに行ったときのこと。営業マンが、「勉強させていただきすので......」と言ったんです。彼との会話では韓国車の話もしたので、僕はてっきり韓国車についてもっと勉強するという意味だと思いました。しかし、とあるガソリンスタンドにも「勉強しまっせ」の文字。僕はようやくそれが「値引き」の意味だとわかったのです。

 値引き交渉がほぼない日本ですが、車だけは結構な値引きが可能なんですね。直接的に値引きといわずに、遠まわしに勉強という言葉を使う、日本の美学かもしれませんね。面白いでしょう、日本語って!

 日本人が勉強以上に好きなものが「反省」です。私も社会人になり、数々の「反省会」に出席することになりました。初めは反省会といわれたので、さぞかし反省をするのだと思い、自分でも反省のネタをいくつか用意していたのですが、ふたを開けてみると、何てことはない、単なる「打ち上げ」って場合が多かったですね。

 反省会という言葉に日本人の情緒が凝縮されているように思います。でも、慰労会が主旨ならば、もう少し前向きな言葉でもいいのではないかと思います。また、次のような疑問もわきます。毎年反省会やっているというのは、全然、反省していないんじゃないの?

■相手を責めるときは「マズイよ」

 よくテレビの特番でタイトルの前に「永久保存版!」とついている場合があります。ビデオ(今はDVD)文化を世界に普及させた日本人だけあって、好きな番組を録画して保存するのが一つの習慣になり文化になっています。ただ、どうでもいいことですが、永久保存していつまた見るのかがとても気になります。次から次へと永久保存版の番組は出てきますし、再生機器が勝手に進化しちゃって、おそらく数年後は再生できなくなるのではと勝手に心配になります。

 次は上級になりますが、「マズイ」という表現。これは、相手を遠まわしに責める時に使います。お前が悪い、間違っていると直接的に言うのではなく、マズイという状態を憂う形で、客観的な立場から相手を非難するという極めて巧妙な手法です。用例としては、「それは、マズイよ〜」が多いです。また、何かをお願いして「難しい」と言われたら、それは「できない」という否定の意味です。僕のかみさんなんか「どれぐらい難しいんですか」と真顔で聞いたりしたものです(笑)。

 このような言葉の意味がわかるレベルになると、私のように日本語の裏のメッセージがわかってしまい、ブルーになりますので要注意です。なお、「ドンマイ」や「バック・オーライ」など和製英語(?)にも注意してください。

 最後になりますが、優しいとされる日本人がそっけなく答える時の「別に」という表現も結構使えます。ただし、この一言で人生が大きく変わることだってありますので用法をきちんと学びましょう。ではまたの機会にお会いしましょう。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、和平案「合意の基礎に」 ウ軍撤退なけれ

ワールド

ウクライナ、和平合意後も軍隊と安全保障の「保証」必

ビジネス

欧州外為市場=ドル週間で4カ月ぶり大幅安へ、米利下

ビジネス

ECB、利下げ急がず 緩和終了との主張も=10月理
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 8
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story