コラム

摘発されたやらせ評価サイトの手口

2013年09月26日(木)17時48分

 レストランや小売店などについて、われわれが日常的に参考にしている評価サイトは多い。そして、その中にやらせのレビューが含まれていることも、それなりに了解しているだろう。

 そうしたやらせのレビューが今後、違法行為としてみなされることになりそうだ。

 というのも、ニューヨーク州司法長官が先頃、人気の評価サイトであるイェルプ、シティーサーチ、グーグル・ローカルなどに偽レビューを多数投稿していたマーケティング会社や店など19社を摘発、合計で35万ドルの罰金を科したからである。

 これらマーケティング会社は、外部のフリーランス・ライターらに頼んでクライアント企業の好評価を投稿させていたが、その手口はなかなかに巧みだ。いくつもの異なったアカウントを取得させたり、同一のIPアドレスであることをわからなくするような手立てを取ったりしていた。司法局がニューヨーク市内のヨーグルト・ショップのふりをし、「店の評判が悪いのをどうにかしてほしい」とそうした会社に持ちかけたところ、やらせのレビューの実態が把握できたという。同局は1年をかけて調査を行い、今回の摘発に持ち込んだ。

 こうしたやらせは、英語では「astroturfing(人工芝行為)」と呼ばれている。偽物で美しく見せかけるという意味だ。評価サイトでのやらせレビューは現在、全体の15〜20%にも上るという調査結果もある。かなりの数だ。

 今回摘発されたことで、やらせレビューのこっけいな舞台裏がうかがえる。たとえばある貸し切りバスの業者は、それまで「予約したはずのバスが来ない」とか、「旅行が台無しになった」といった最低のレビューしかなかったのに、外部のライターや社員に「この会社は最高だ」などという新たなレビューを書かせて、5つ星を満載させた。

 また、あるマーケティング会社は、「いろいろな表現を使うこと」とか「パーソナルな雰囲気を出すこと」などと、細かくやらせレビューの書き方を指導していたという。

 やらせレビューは、消費者保護に抵触する行為。それが、今回の摘発の位置づけである。過剰広告やだましの類いである。胸がすくような思いだ。各社はその行いを認めてはいないものの、罰金の支払いには同意している。払う罰金は、2500ドルから10万ドルまでと開きはあるが、これまで野放しにされてきたこうした行いに、何らかのケジメが付けられたことは歓迎だ。

 しかし、だからと言って、やらせレビューがなくなることはないだろう。何でもイェルプのレビューで星の数がひとつ増えると、その店の売上は5〜9%上がるそうだ。また、ホテルの評価では5点満点で1点ポイントが上がると、宿泊料が最大11.2%値上がりしても、客はそのホテルを選ぶという。つまり、レビューの星の数はそのまま売上に直結しているわけで、何としても評価を上げたいという心理は消えないだろう。

 そうなると、勝負のしどころは、われわれユーザー側の見る目を養うことだ。ネット上には、偽レビューにだまされないようにする指南がいろいろあるが、参考になるものをいくつか挙げておこう。

・最高と最低のレビューは、あまり参考にしないこと。偽の好レビューと共に偽の低レビューもある。いずれの方向にも極端なレビューは敬遠すべし。

・文章がヘンなレビューには注意。マーケティング会社は、偽レビュー作成について1本あたり1〜10ドルを支払っているという。ライターはせっせと稼ごうと大量生産に走り、そのため文法や綴りの確認がおろそかになる。

・レビュアーの履歴を確認。いつごろからアカウントを持っているのか、他にどんなものをレビューしているのかからも、怪しさの加減がわかる。

・ひとつの評価サイトに頼らないこと。縦横にチェックすることが必要。

・レビュアーの数が多く、それでもまだ評価が高いものは信頼できる。

 ところで、よく知られていないが、「やってはいけないレビュー」もある。

 たとえば、ウィキペディアで自分のことを書くのはルール違反だ。自己紹介だと思って自分の項目を設けている人もいるかもしれないが、同サイトは自分や自分が関わっている事業などについて、自身で投稿してはいけないと定めている。それは、「自分のプロモーション」になり、客観性を欠くからである。したがって、もし何か間違った記載がされていても、黙って耐え、誰か心ある編集者が訂正してくれるのを待つしかない。

 また、ルールはないものの、ひどく評判を落とすのは、アマゾンなどで著者が自著を褒め讃えるというケース。ここ数年で、有名作家が「天才的な作家」などと言って自著に5つ星を与えて自画自賛し、同時にライバル作家の著書をこきおろしていた事実が何件か明るみに出た。衝動はわかるが、不名誉な結果になることは間違いない。

プロフィール

瀧口範子

フリーランスの編集者・ジャーナリスト。シリコンバレー在住。テクノロジー、ビジネス、政治、文化、社会一般に関する記事を新聞、雑誌に幅広く寄稿する。著書に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか? 世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』、『行動主義: レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家: 伊東豊雄観察記』、訳書に『ソフトウェアの達人たち: 認知科学からのアプローチ(テリー・ウィノグラード編著)』などがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独中副首相が会談、通商関係強化で一致 貿易摩擦解消

ビジネス

FRB追加利下げは慎重に、金利「中立水準」に近づく

ビジネス

モルガンS、米株に強気予想 26年末のS&P500

ワールド

ウクライナ、仏戦闘機「ラファール」100機取得へ 
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 8
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story