コラム

要するに米国見習え?

2012年06月15日(金)17時37分

 ユーロ危機に揺れる世界経済。本誌日本版6月20日号の表紙のトップには、「失速の中国、絶望のユーロ」の文字が躍っています。

 ユーロも大変だけど、中国経済の見通しも良くないよ、というわけです。まあ、それはそうでしょう。では、何が問題なのか。2本の特集記事が掲載されています。

 このうち『中国経済を蝕むガン細胞の正体』では、中国経済の専門家の大半が、短期的には中国経済が「心臓発作」を引き起こしかねないと見ていると紹介した上で、そうではないと主張します。

「事実上、国が銀行を所有し管理しているため、国が破綻して預金者が預金保証への信頼を完全に失うまで銀行危機は顕在化しない。金融システムを国が所有するこの中国の特性が、資本配分を効率的にできない原因でもある。だが短期的には、この構造上の欠陥が金融システムの心臓発作を回避する強さとなる」

 ふだんなら弱さになるものが、危機には強みになる。皮肉なことですが、これが中国経済です。

 なるほど、と思いながら読み進むと、最後に、以下の文章が出てきました。

「中国政府は今、成長を取り戻すためにこれまでと違った政策を模索しなければならない。減税や規制緩和、国有企業の民営化、社会福祉への予算拡充などはすべて国内需要を喚起して成長を促進できる」

 あれれ、要するに、「アメリカ式にするべきだ」と言っているのですね。アメリカだって経済が悪化してもがいているのに。

 こうした主張をもっと露骨に披露しているのは、もうひとつの記事『限界に達した中国チープ路線』です。こんな文章が出てきます。

「中国が安定を維持するためには成長する必要がある。成長を維持するには状況の変化に適応しなければならない。中国も過去数十年間のアメリカと同じように、競争し繁栄するために構造改革をするのなら、グローバル化の痛みは避けて通れない。中国政府は緊急に改革プロセスを推し進めて、透明性を高め、一貫性のある安定した司法制度を生み出さなければならない」

 ここでもまた、「アメリカに学べ」と言っています。なんでしょうね、この上から目線は。アメリカ経済が大きく発展している最中なら、それなりに説得力があるでしょうが、こんな状態でよく言うねえ、と突っ込みを入れたくなります。

 でも、結論は、以下の通り......

「中国が透明性の向上と法の支配に向かって邁進すれば」「米企業も中国での事業の再活性化に乗り出しやすくなる」

 なーんだ、アメリカの企業が活動しやすいように(金儲けしやすいように)、中国は改革しろと言っているのではありませんか。

「中国にとってもアメリカにとってもいいことずくめだ」というのが最後の文章でした。中国がアメリカに見習えば、アメリカは中国で大もうけできる。要は、そんな記事だったのです。

プロフィール

池上彰

ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。32年間、報道記者として活躍する。94年から11年間放送された『週刊こどもニュース』のお父さん役で人気に。『14歳からの世界金融危機。』(マガジンハウス)、『そうだったのか!現代史』(集英社)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

訂正-米、イランのフーシ派支援に警告 国防長官「結

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

米債市場の動き、FRBが利下げすべきとのシグナル=

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story