コラム

中国現代史への視座

2012年04月21日(土)20時04分

 本誌日本版4月25日号の表紙は、赤旗に黄色の「鎌とハンマー」です。久しぶりに見る旧ソ連の国旗......と一瞬勘違いしそうになりましたが、そうではなく、中国共産党の党旗(徴章)でした。

「鎌」は農民、「ハンマー」は労働者のシンボル。虐げられた農民と労働者を守る党が共産党......ということになっていました。中国が、ここまで剥き出しの資本主義路線を走っていても、その舵取りをしているのは「共産党」という名称の政党なのです。

 この党は、まだ中華民国の時代に上海の一角で産声を上げました。創設以来、数々の党内闘争が起こり、裏切りと失脚に彩られてきました。彩りは血の色でした。

 そしてまた、重慶市のトップだった薄熙来の失脚をめぐって党内闘争が繰り広げられているようです。

 薄熙来が重慶で展開した「革命歌を歌おう」運動は、文化大革命のことも知らない若者たちが紅衛兵の格好をするという醜悪なものでした。でも、時の流れは不思議なもの。年寄りたちが、往時を偲んで喜んでいるのですから。当時、大勢の人が苦しみ、多くの血が流されたはずなのに。年寄りたちが革命歌を懐かしがる光景は、まるで軍歌で歌いながら苦しかった戦時中を懐かしむ老人たちの姿にイメージが重なりました。

「革命歌を歌おう」運動は、それなりのインパクトがありました。毛沢東の時代は、貧しかったけれど、皆平等。それに対して、いまは格差が拡大。そんな庶民の不満が薄熙来への支持につながっていました。北京のタクシー運転手が毛沢東の写真を車内に飾っているのを私は何度も目撃しました。北京の「毛主席紀念堂」に安置されている毛沢東の遺体を見に来る人たちの列は絶えません。

 過去にも、鄧小平が改革開放を進めると、党内の保守派が反発。「毛沢東時代に戻れ」とばかりに、改革が引き戻されたりしたものです。いまの資本主義化された中国の光景を見ると、共産党内部には依然として資本主義化する潮流を面白く思っていない勢力がいることを忘れがちになりますが、それでは中国の奥の院で展開される権力闘争が見えてこなくなります。

 中国に比べれば、日本のほうがはるかに"社会主義"国家。中国共産党は走資派(資本主義の道を進む者の意。文化大革命時代、共産党の改革派に貼られたレッテル)そのものですが、党名が「共産党」である以上、どこかで揺り戻しが起きるものです。

 そんな歴史観を持って、本誌の特集を読むと、一層興味深いはずです。

プロフィール

池上彰

ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。32年間、報道記者として活躍する。94年から11年間放送された『週刊こどもニュース』のお父さん役で人気に。『14歳からの世界金融危機。』(マガジンハウス)、『そうだったのか!現代史』(集英社)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米雇用、11月予想上回る+6.4万人・失業率4.6

ビジネス

ホンダがAstemoを子会社化、1523億円で日立

ビジネス

独ZEW景気期待指数、12月は45.8に上昇 予想

ワールド

トランプ氏がBBC提訴、議会襲撃前の演説編集巡り巨
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 7
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 10
    「日本中が人手不足」のウソ...産業界が人口減少を乗…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story