コラム

「原発は止めろ、値上げはいやだ」と駄々をこねる人々

2012年11月02日(金)14時54分

 関西電力、九州電力、北海道電力、東北電力、四国電力は、あいついで電気料金の値上げを表明した。原発の停止によってLNG(液化天然ガス)の輸入が急増したことが最大の原因だ。すでに値上げの方針を表明した東京電力と合わせて、10電力のうち6社が値上げすることになる。

 関西電力が29日に発表した今年4~9月期の中間決算は、最終損益が1167億円の赤字で、原発の停止にともなうコスト増は2700億円。九州電力は1650億円の最終赤字で、このまま赤字がふくらむと、2014年3月期には債務超過になるという。北海道電力は泊原発を再稼働しないと、今年の冬に電力不足に陥るおそれがある。北陸と沖縄を除く8社の中間決算の赤字額は合計6700億円にのぼる。

 原発を止めたことによるLNGなどの燃料費増は、政府の見通しによれば昨年2.3兆円、今年は3.1兆円である。全国の電力会社の売り上げの合計は約15兆円だから、その2割が原発の停止で吹っ飛ぶことになる。短期的にはやりくりで値上げ幅を抑えるにしても、長期的には電気料金が2割上がることは避けられない。産業用の料金も利用者に転嫁されるので、1人あたり年間2万5000円の負担増。消費税の1.5%に相当する。

 ところが原発の再稼働に反対した人々が、今度は値上げに反対している。たとえば北海道新聞は「安易な値上げは認められない」と主張する。



既に値上げを正式表明した関西電力や九州電力と同様、北電は原発比率が4割と高い。原発への過度の依存が経営を急速に悪化させたばかりでなく、電力の安定供給も危うくしたと言える。[中略]電力会社は原発頼みの経営体質を変えなければならない。

 これは言いがかりである。値上げが必要になったのは北電が「原発頼み」だったからではなく、政府が唐突に原発を止めたからで、これは電力会社の責任ではない。経営体質をどう変えようと、これまでに輸入したLNGの損失は変えられない。

東京新聞は「世界最高値で買ってツケを消費者に回す商慣習は改めねばならない」と値上げに反対するが、電力会社がLNGを高値で買わされたのは、原発が急に止まり、スポットで調達したためだ。

 昨年12月のLNG価格(100万BTUあたり)は、アメリカの2ドル以下に対して、日本は18ドル以上と9倍にのぼる。LNGのほとんど長期契約で調達されているので、スポット市場に出ている量は少ない。そこに原発を止められて他にオプションのない日本の電力会社が殺到したため足元を見られ、高値でLNGを買わされたのだ。

 北海道新聞は「原子力規制委員会が新しい安全基準を決めるまで再稼働は許さない」というが、新基準が決まるには1年以上かかるとみられている。新基準ができるまでは、旧基準を適用するのが法治国家のルールである。地方紙の論理を適用するなら、建築基準法を改正するときは、新基準が決まるまで旧基準の家に住んではいけないのだろうか。

 かつて原発停止をあおった急先鋒は、こういう地方紙だった。その責任に口をぬぐって「電力会社が悪いから値上げは認めない」と主張するのはご都合主義である。こういうわがままは、55年体制で社会党が「増税には反対だが福祉は充実しろ」と主張したのと同じだ。幸いなことに、ネットメディアによって真っ先に淘汰されるのも、こうした「万年野党」である。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

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