コラム

大型店の規制強化で利益を得るのは誰か

2010年10月07日(木)18時01分

 大畠章宏経済産業相は7日、全国商工会連合会などと会談し、「大型店の規制が緩和されて、中小の商店がさびれた。このまま放置すると地域社会が崩壊する」と述べ、大型店の出店規制を強化する方針を示した。「小泉改革で格差が拡大した」という民主党の宣伝が嘘であることは周知の事実だが、同じレトリックが、今度は「規制改革で地域が崩壊した」と装いを変えて出てきたわけだ。

 大型店の規制が、小泉政権によって緩和された事実はない。大規模小売店舗法(大店法)は2000年に廃止されたが、その代わり同じ年に大規模小売店舗立地法(新大店法)ができ、「都市計画」の観点から規制することになった。旧大店法ではスーパーマーケットの中心市街地への立地を主として規制していたのに対して、新大店法では郊外型ショッピングセンターが規制対象になることが多い。

 規制の理由も、既存の小売店の営業への影響を理由にすることはWTO(世界貿易機関)違反の疑いがあるとアメリカに批判されたため、地域社会への影響を審査することになっている。しかし現実には、「車が増えて危険だ」とか「環境が悪くなる」といった理由で出店が認可されなかったり、店舗面積が削減されたりするケースが多く、実態は昔の大店法とほとんど変わらない。

 郊外型ショッピングセンターを規制することで利益を得るのは、地元の商店街ではない。昔ながらの小売業が衰退した原因はモータリゼーションと人口減少なので、規制によって商店街を守ることはできない。特定の商品に特化して低価格で大量に売る「カテゴリーキラー」と呼ばれる郊外型ショッピングセンターと競合するのは、既存の大型店である。

 特に1973年に大店法ができるまでに中心市街地に進出したスーパーマーケットは、その後の規制強化で新規出店がなくなったため競争がなくなり、デパート並みの価格で売っている。つまり新大店法の規制を強化しても「地域社会の崩壊」を防ぐ効果はなく、既存の大型店がもうかるだけなのだ。

 最大の問題は、経産相が消費者の利益をまったく考えていないことだ。地方の商店街には、ファッションも情報通信機器もフィットネス施設もない。ある都市で大型店の出店を規制しても、消費者は地元の商店街へは行かず、自動車で隣町の郊外型ショッピングセンターに行くだけで、割りを食うのは車をもっていない交通弱者である。

 日本経済全体を考えた場合、その成長率を低下させている最大の原因はサービス業であり、特に小売業の近代化が遅れている。たとえば世界最大の小売業ウォールマートの年間売り上げは4050億ドル(33.6兆円)だが、日本最大のセブン&アイ・ホールディングスの売り上げは5.1兆円と一桁違うため、自社ブランド生産や海外生産が困難だ。経産相の政策は、内需を拡大して成長率を引き上げるという政府の「成長戦略」と矛盾するものだ。

 大型店を規制して商店街を守ろうというのは、コメに関税をかけてコメ農家を守ろうというのと同じで、競争のなくなった既存商店はますます衰退し、日本の小売業は世界から取り残されるだろう。逆にいえば、小売業の生産性は非常に低いので、その効率を上げれば地域振興に役立てることもできる。一部の自治体では、大型店を誘致して地域に大型のショッピングセンターをつくり、近隣の町から客を集めているところもある。

 昔から住んできた町に住み続けたいという人々の気持ちはわかるが、商店街が都会と同じように繁盛するのは無理だ。流通の近代化によって地域社会が大きな影響を受けることは事実だが、それは規制を強化しても止めることはできない。日本経済が停滞を脱するためにも、人々が都市に移動してサービス業の生産性を上げるしかないのである。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

訪中のメルツ独首相が首脳会談、関係深化で一致 合意

ワールド

トランプ政権、各国のデータ規制に反対 阻止を指示=

ビジネス

英光熱費、4月から値下げ 上限7%引き下げ

ワールド

訂正(24日配信記事)-英、ウクライナへの一連の支
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 3
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 4
    3頭のクマがスキー客を猛追...ゲレンデで撮影された…
  • 5
    最高裁はなぜ「今回は」止めた?...トランプ関税を違…
  • 6
    【クイズ】サメによる襲撃事件が最も多い国はどこ?
  • 7
    2月末に西の空で起こる珍しい天体現象とは? 「チャ…
  • 8
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 9
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの…
  • 10
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 3
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 4
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 5
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 6
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 7
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 8
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 9
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 10
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story