コラム

世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも

2026年01月14日(水)20時40分

今回のレアアース泥の試掘の発端は、10年ほど前に遡ります。東京大学大学院工学系研究科の加藤・中村・安川研究室は2013年、日本の排他的経済水域(EEZ)である南鳥島周辺に1600万トンという膨大なレアアース泥が存在していることを発見しました。しかも、泥のレアアース含有率が世界最高水準の高濃度であることも分かりました。

現在、世界のレアアースを国別に見ると、埋蔵量は約5割、精錬量では約9割が中国です。レアアースの精錬では放射性元素を含む多量の廃棄物が発生するため、たとえレアアース資源を持つ国でも処理コストや環境負荷の面などから精錬には手を出しにくく、利用や輸出にはつながりにくくなっているという事情があります。


一方、南鳥島沖のレアアース泥は海中で濃縮されているため、この品質のものが継続的に採掘できるのであれば、廃棄物処理が従来のレアアース鉱石よりも緩和されることが期待されています。ただし、商用化へ向けては、技術的な問題とともに、コストに見合う量が採れるのかというハードルもあります。

そのため、今回の試掘では海底から泥を採取する技術を主に確認します。南鳥島の南東沖約150キロにある現場に到着後、1週間ほどの準備期間をおいて、船上から水深約6000メートルの深海までパイプを延ばして2月中旬まで泥を採取する予定です。さらに来年2月には、1日最大350トンの本格的な試掘を行って採算性などを検証する計画があります。

南鳥島沖には「マンガン団塊」も広く分布

日本は、国土面積は約37.8万平方キロ(世界第60位)と狭いものの、領海・排他的経済水域は約447万平方キロ(世界第6位)と世界有数の広さを誇ります。近年は、日本の海底には豊富なレアアースや海底鉱物資源、石油や天然ガス、メタンハイドレートなどが眠っていることが確認されています。

実はレアアース泥の試掘が行われる南鳥島沖には、コバルトやマンガン、ニッケルを豊富に含んだ「マンガン団塊(マンガンノジュール)」も広く分布していることが、レアアース泥を発見した東京大グループによって16年に確認されました。

24年6月に行われた調査によると、南鳥島周辺の1万平方キロの海域には約2.3億トンのマンガン団塊が密集しており、日本の年間消費量の75年分に相当するコバルト資源(約61万トン)や ニッケル資源(約74万トン)の存在が判明しました。

マンガンは乾電池(マンガン電池)や、鉄の硬度や耐食性を向上させるのに不可欠なレアメタルです。コバルトとニッケルは、電気自動車やモバイル電子機器のバッテリーに必須の物質です。

現在、この海域のマンガン団塊の商用化に向けて、1日に数千トン規模で揚鉱(※海底の鉱石を母船まで引き揚げること)する実証試験が計画されています。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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