コラム

【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ステーション補給機の価値 「人類のさらなる可能性切り開く鍵に」

2025年11月02日(日)09時40分

6.宇宙飛行士にとって、補給機到着はスペシャルイベント

大西宇宙飛行士によると、ISSには補給機が2カ月に1回くらいの頻度で到着するという。ISSに補給機がドッキングすると「部屋が1つ増えるようでワクワクする」そうで、宇宙飛行士たちは補給機からの荷物の取り出し作業でいつにも増して忙しい時間を過ごすことになる。

宇宙での実験に必要な装置やサンプル、生活必需品などとともに補給船に積まれ、ISSクルーたちがもっとも楽しみにしている物資の1つが「生鮮食品」だ。


大西さんは今年8月までISSに船長として滞在し、クルーのコミュニケーション向上のために週に1度、全員集まって食事をとることにしていた。「補給船が到着したときは、クルーが生鮮野菜でサラダを作ってみんなに振る舞ったこともある」と語る。

現在、ISSに滞在している油井さんは野菜が苦手なことで知られているが、HTV-X1には福島県産トマトに加えて、青森県産りんご、千葉県産と新潟県産の和梨、福岡県産の温州みかんと多彩な果物が搭載された。しかも、HTV-Xは「こうのとり」よりも打ち上げ直前に積み込むことができるため、より新鮮な状態でISSに到着した。

近いうちに、油井さんの「生鮮食品の食レポ」が聞けるかもしれない。

7.HTV-Xを日本が開発・運用する意義

HTV-XとH3ロケット最強形態の打ち上げ初成功は、日本の宇宙開発の技術力を示し、国際社会におけるプレゼンスの向上に大いに貢献する。

現在、アメリカではトランプ政権下で宇宙政策が大きく揺れている。25年5月には、NASAに対して大幅な予算削減と職員解雇が要求された。7月にはNASA職員の2割超にあたる約4000人が早期退職制度に応じたと報じられた。

NASAで数十のプログラムが中止される中、ISS運用の生命線とも言える補給機事業で、多くの物資を運べて利便性の高いHTV-Xを開発し、運用を開始したことは、日本に対する国際社会の期待に高い水準で応えた形となった。

また、宇宙開発を続ける上で「自国産の有人宇宙船」を持つことは日本の悲願だ。空気循環システムや環境管理システムを搭載したり、効率的な輸送だけでなく「宇宙の実験室」としても使用可能だったりするHTV-Xで培われた技術は、次世代の惑星探査においても重要な技術となるだろう。

newsweekjp_20251101150941.jpg

歓喜に沸くHTV-X運用管制室で喜びを分かち合う伊藤さんと近藤さん(10月30日) 画像:JAXA提供

ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ECBが金利据え置き、4会合連続 インフレ見通し一

ワールド

ロシア中銀、欧州の銀行も提訴の構え 凍結資産利用を

ビジネス

英中銀、5対4の僅差で0.25%利下げ決定 今後の

ワールド

IS、豪銃乱射事件「誇りの源」と投稿 犯行声明は出
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 2
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 6
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 7
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 8
    円安と円高、日本経済に有利なのはどっち?
  • 9
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 10
    欧米諸国とは全く様相が異なる、日本・韓国の男女別…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story