コラム

大気中のCO2濃度、年増加量が観測史上最大に...日本の人工衛星「GOSATシリーズ」は温暖化対策にどう貢献するのか

2025年02月18日(火)11時25分

温室効果ガスは、地球から宇宙への熱の放出の一部を留め、地球の気温を上昇させる効果を持つ気体の総称です。

産業革命以来、特に20世紀に入ると人間活動によって急速にCO2やメタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、人工物質であるハロカーボン類などの温室効果ガスが増加しました。とりわけCO2が注目を集める理由は、人為的な要因で排出される温室効果ガスの中でCO2が占める割合は、世界平均で75%超、日本では約90%にもなるからです。

もっとも、「地球温暖化は人為的なCO2濃度の増加ではなく他の要因で起こっている」と唱える研究者も散見されます。彼らが要因とするのは、太陽活動や氷期-間氷期のサイクルなどです。しかし、たとえばこれまでの氷期と間氷期では、CO2濃度の差は約100ppmだったと見積もられており、自然現象だけが原因で現在と産業革命以前との濃度差(140ppm)を説明するのは難しいようです。

国立環境研究所地球環境研究センターの江守正多・温暖化リスク評価研究室室長によると、温暖化をテーマにしている科学論文の約97%は、人間活動によるCO2増加が温暖化の主な原因であることを前提にしていると言います。つまり、専門家の間では「地球の温暖化には人為的なCO2増加が大きく影響している」という考えが主流ということです。

世界各国の気象機関は、主に自国の観測地点で地表面のCO2濃度を測定し、そのデータを用いてCO2の全球平均濃度を算出して発表しています。もっとも、CO2は高度によって濃度差があるために、地上観測点だけのデータでは地球大気全体の濃度を正確に表すことはできません。

GOSATシリーズの強み

そこで日本では、宇宙から主要な温室効果ガスであるCO2やメタンの大気中濃度の観測を行うことを主目的として、GOSATシリーズの開発が進められました。

2009年に1号機(温室効果ガス観測技術衛星「いぶき(GOSAT)」)、18年に2号機(「いぶき2号」、GOSAT-2)が打ち上げられ、現在も2機が運用中です。さらに、25年度には3号機(温室効果ガス・水循環観測技術衛星、GOSAT-GW)が打ち上げられる予定です。

GOSATシリーズの利点は、地表面から大気上端までの全大気中の主要温室効果ガスを観測できることです。「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の報告書等、世界で地球温暖化のリスクや温室効果ガスの削減目標が語られる場合に記載されるCO2濃度は「全大気の平均濃度」です。上空の大気まで含めた観測が可能な「いぶき」は、気候変動リスクの算出や評価において、今後ますます国際社会で重要な役割を果たすと考えられます。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story