コラム

地球に帰還した古川聡宇宙飛行士、「軌道上記者会見」で2度質問した筆者が感じたその人柄と情熱の矛先

2024年03月12日(火)22時20分

その後、ISS滞在が正式決定したタイミングなど、折々で古川さんが記者と質疑応答する機会がありましたが、かつてのフレンドリーな態度はなく、どこか身構えているような印象もあり、一記者として寂しさを感じていました。

昨年9月の軌道上記者会見で、筆者は「医学者かつ研究者である古川さんが、今後の有人月面探査の中で人体への影響という点で特に気になることと、宇宙医学が宇宙開発だけでなく地球の我々にどのように役立つかを教えてください」という質問をしました。実は後半部分は、当日の他の記者との打ち合わせを反映して、事前に古川さんに渡っていた質問から少し変更がありました。

前半について、放射線の人体への影響と制御コントロールの大切さを淀みなく話してくれた古川さんは、後半について「質問をもう一度お願いします」と確認して、真剣な表情でその場で考えながら「地上の人の健康増進、とくにバランスが悪くなった時の回復方法や、筋肉や骨が弱くなってからどう高めるかに宇宙での知見が活かせる」と回答しました。

宇宙での人体の不思議を共有することに情熱

とてもよい話を引き出せたと思う反面、古川さんの表情が強ばっていたため「論文問題で記者に厳しく追及された経験のある古川さんに、予定外の質問をすべきではなかったのではないか。記者に騙し討ちされたような気分になったのではないか」と申し訳ない気分になりました。

そこで、次に話せる機会となった2月の軌道上記者会見では、「視聴者だけでなく、古川さん自身も話していて楽しくなるような話題を質問に選びたい」と考えました。そのヒントは古川さんのSNS、Xの投稿にありました。

たとえば昨年9月21日には「無重力による体液シフトにより、顔が丸くなりました。元々丸顔なのですが、さらに丸くなっているのが分かると思います」、2月12日には「飛行前に比べ宇宙での私の身長が1cm伸びていました。宇宙で1-5cm程度身長が伸びる飛行士が多いですが、もっと伸びた人もいると聞きます。脊柱(背骨)の椎体と椎体の間にありクッションの役割をしている椎間板が、宇宙における微小重力の影響で伸びるためとされています」と投稿するなど、宇宙での人体の不思議をみんなと共有したい、自分自身の変化にワクワクしている古川さんの様子が窺(うかが)い知れました。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

クグラーFRB理事が退任、8日付 来年1月の任期満

ビジネス

NY外為市場=ドル急落、147円台 雇用統計軟調で

ビジネス

米国株式市場=続落、ダウ542ドル安 雇用統計軟調

ビジネス

米7月雇用7.3万人増、予想以上に伸び鈍化 過去2
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 5
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    これはセクハラか、メンタルヘルス問題か?...米ヒー…
  • 8
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    ニューヨークで「レジオネラ症」の感染が拡大...症状…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 3
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経験豊富なガイドの対応を捉えた映像が話題
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 5
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story