コラム

4秒×1万回で11時間の睡眠を確保...ヒゲペンギン「超細切れ睡眠法」採用の切実な理由

2024年01月09日(火)16時20分

しかし今回の研究では、コロニーの端にいるヒゲペンギンは、中心部にいるペンギンよりも睡眠の質が高い(より長く、より深く、片半球敵な睡眠が少ない)ことが観察されました。これは、①ヒゲペンギンの場合は仲間が巣の材料を盗むリスクがあるため、仲間が密集しているコロニーの中央付近ではより警戒しなければならないこと、②過密なほど騒音が聞こえたり身体がぶつかったりするリスクが高まること、などが理由として考えられると言います。

数秒から数分の睡眠であるマイクロスリープは、ヒトの世界では疲労回復には短すぎて役に立たないとされており、しかも運転中などに起こると命に関わり非常に危険なやっかいな状態です。

対してヒゲペンギンでは、マイクロスリープを1万回という莫大な回数を積み重ねることによって、継続に警戒が必要な状況に適応した実践的な睡眠戦略として機能しているようです。ただし、今回はどれくらい疲労回復しているかを実際に測定したわけではないので、今後さらに詳細なメカニズムの解明が期待されます。

近年は「睡眠の科学」に対して注目が高まっています。ヒトでは「日中に15分から30分程度の短時間の昼寝をすると、睡眠不足解消や疲労回復、仕事のパフォーマンス向上に効果がある」とする調査報告が相次ぎ、米コーネル大の社会心理学者ジェームス・マース教授は「パワーナップ(積極的仮眠)」と名付けました。最近はパワーナップを考慮して仮眠室を設置したり、昼休みを長くしたりする企業も増えつつあります。

2024年は、質の良い睡眠で自分をいたわりながら、充実した年にしたいですね。

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プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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