コラム

大成長の甘味料市場 日本における「甘味」の歴史とリスク

2023年03月07日(火)13時30分

人工甘味料は日本では食品添加物という扱いになるため、食品衛生法で一日の摂取許容量(ADI)が定められています。甘味が強いため多量摂取は考えにくいですが、歴史が浅いことから、健康への影響は最新の研究にも注目する必要があります。

一方、今回、ラーナー調査研究所によって研究された「エリスリトール」は、糖アルコールに分類される天然由来の甘味料です。甘さは砂糖の75%程度で、メロンやキノコなどの果実や野菜、清酒や味噌などの発酵食品に含まれているカロリーゼロ(※)の糖質です。
※食品では100グラム、飲料では100ミリリットルあたり5キロカロリー未満はカロリーゼロと表記される。

あまり知られていませんが、日本で手に入りやすい甘味料のうち、天然甘味料として人気のあるステビアやラカンカの製品は、原材料の主成分はエリスリトールである場合がほとんどです。ステビアやラカンカは砂糖の約200~300倍の甘さなのでほんの少量しか必要にならないため、調味料としては使いづらさがあります。そこでエリスリトールを加えて、砂糖のような外観や使用量になるようにしているのです。

大量摂取で血液凝固を誘発、血栓の生成リスク増加

今回、研究チームは1157人の患者(心疾患の危険を伴う基礎疾患がある人)を対象に調査しました。すると、エリスリトールの血中濃度が上位25%に入る人は下位25%の人に比べて、3年以内の心臓発作や脳卒中のリスクが2倍になることを発見しました。

チームは、理由を調べるために、健康な人の血液や動物実験で確認しました。その結果、エリスリトールを大量に摂取すると血液凝固を誘発し、血栓の生成リスクが増すことが分かりました。

これらの結果について、低カロリー食品や飲料業界の国際的な業界団体であるカロリー・コントロール・カウンシル(CCC)は「エリスリトールの安全性は、長年の科学的研究で示されている。食品や飲料への使用は世界中で認められている」と反論しています。実際に、今回の研究の被験者は心疾患の危険因子を持つ人たちに特化されていたため、健康な人の集団で同じ実験をした時に同様の結果が得られるとは言い切れない面があります。

ヘイゼン氏は「エリスリトールは確かに天然の食材に含まれるが、加工食品ではその濃度が1000倍以上高くなることがある。甘味料を摂取しすぎると、腸内細菌叢に影響して慢性疾患を引き起こす可能性もある」と警鐘を慣らしています。

甘いものを好み、食べると幸せな気分になる人は多いですが、砂糖であれ、甘味料であれ、自分の健康状態に適した量を守り、依存しすぎないことが大切です。

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story