コラム

H3ロケット「中止か失敗か」論争、若田宇宙飛行士の船外活動 2つのJAXA記者会見に参加して思うこと

2023年02月21日(火)12時20分

メディアは取材対象の広報担当ではありませんから、時には批判的な切り込みも必要です。とりわけ会見では、記者全体が共有できる答えを増やし、多くの情報を読者に届けるために、阿吽の呼吸で押したり引いたりと質問の役割分担をすることもあります。

ただし、かつては一般の人にはブラックボックスであった記者会見も、最近は多くが配信で見られるようになりました。マスメディアによる報道が「第4の権力」と言われて久しいですが、個人がSNSで発信できる時代においては、取材対象だけでなく記者も世間の目に晒されていることを忘れてはなりません。

記者の役割分担で筆者が最近体験した好事例は、H3ロケットの会見の数時間後に行われた若田宇宙飛行士のISSからの「軌道上記者会見」です。通信時間は20分、若田さんの最初と最後の挨拶があるので、質疑応答は正味15分ほどしかありません。

質問の順番は、最初にテレビ局や新聞社からの代表質問が3問あり、筆者を含む他の媒体の記者3名が1問ずつ行うという方式です。時間に余裕があれば2周目に入ります。質問は予備を含めて、事前に若田さんに届いています。

今回は、若田さんが5回目の宇宙滞在で初めて船外活動を行ったことが最大のニュースでした。筆者は、船外活動の太陽電池の架台の設置作業が予定通りにいかず、リアルタイムで地球とやり取りをして行った時の状況や、チームワークを保てた秘訣を尋ねる予定でした。もっとも、他の質問が分からない状態で会場に行くので、全員が船外活動について尋ねるならば、自分は予備の質問をしようと心積もりをしておきました。

記者会見開始30分前に記者4名が集まったので、質問の擦り合わせをすることにしました。代表質問3問は、①船外活動の所感と船外から見た地球の印象、②H3ロケットの打ち上げに関するコメント、③古川聡宇宙飛行士が関わった宇宙医学実験のデータ書き換え問題について、でした。質問を準備した当時は、打ち上げ成功に対するコメントを予定していたはずですが、今となっては厳しい質問が続く印象です。

ISSからの記者会見はYouTubeで配信され、アーカイブも残ります。番組として考えた時に、筆者のターンでは「和の心」「絆」などをキーワードにして、明るさや希望を感じさせる答えを引き出そうと考えました。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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