コラム

飼い主や同居ネコの名が分かる? 2022年に話題となったネコにまつわる研究

2022年12月27日(火)11時20分
ネコ

2023年の干支はウサギだが、同じく十二支を使うタイやベトナムでは「ネコ」の年(写真はイメージです) Azaliya-iStock

<飼い猫、野良猫として身近な存在のネコだが、イヌに比べると科学的な研究や調査は多くない。そんな中でも今年話題となった研究やネコにまつわるエピソードを紹介する>

日本では現在、約894万6000匹のネコが飼育されています(2021年ペットフード協会調べ。21年から計算方法が変更)。飼育世帯数は517万2000世帯で、約10軒に1軒がネコを飼育していることになります。

純血種を飼育する家庭が8割を超えるイヌに対して、ネコは地域猫や保護猫を迎える家庭も多いことから、8割近くが雑種を飼育しています。

飼育しなくても野良猫として身近にネコがいる現在の日本ですが、科学の世界ではイヌと比べて研究や調査は決して多くありません。その中でも、2022年に話題になったものを紹介しましょう。

ネコは同居のネコや飼い主の名前を知っている?

イヌは飼い主の言葉を学習し、優れた個体は4000語ものおもちゃの名前を覚えていたという研究があります。いっぽう、ネコに関しては、ヒトの言葉をどれくらい識別しているのかの研究はほとんどなされていませんでした。

2020年に上智大の研究チームは「ネコは自分の名前が分かっている」という成果を発表しました。では、同居ネコの名前やヒトの呼び名(お母さん、パパ、一家の子供の名前など)は理解しているのでしょうか。

京都大、麻布大などの研究チームは、「ネコは友達や飼い主の名前を覚えている」ことを実験で示しました。研究成果は22年4月、「サイエンティフィック・リポーツ」オンライン版に掲載されました。

実験は、一般家庭やネコカフェのネコの計48匹に対して行われました。モニターの前にネコを座らせ、同居する他のネコの名前(実験1)もしくは同居するヒト家族の名前(実験2)を呼ぶ声を再生した後に、それらの名前の人物と一致、あるいは不一致する顔写真を映しました。

実験1では、呼ばれたネコの名前とモニターに映ったネコの写真が、一致している時と、していない時のネコの反応を調べました。家庭のネコでは不一致の時のほうがモニターを眺めている時間が長かったと言います。

これは「期待違反法」といって、期待と違うものを見せたときに、どれだけそのものを長く見つめるかを調べる実験です。今回、モニターを長く見つめたのは、自分が知っている名前と写真が違って戸惑っていることを示唆します。つまり、ネコは同居する友達ネコの名前を覚えていたと解釈できました。

ネコカフェのネコでは、名前と写真が一致する時と不一致の時で大きな変化は見られませんでした。ネコカフェでは飼い猫に比べて、ネコの名前が呼ばれることが少ないので、友達の名前を覚える機会が少なく、あまり反応がなかったと推測されます。

また、飼い猫では、多頭飼育で一緒に暮らす時間が長いネコたちが、不一致の時にモニターを長く見つめる反応が大きく見られたそうです。多頭飼育では、飼い主によって自分や友達の名前を呼ばれる頻度が高く、友達ネコが自分ではない名前を聞いて反応する様も見る機会が多いために、より覚えている結果になったと考えられます。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米の日鉄投資計画承認、日米の経済関係強化につながる

ワールド

米空母、南シナ海から西進 中東情勢緊迫化

ビジネス

ECB、政策の柔軟性維持すべき 不確実性高い=独連

ワールド

韓国、対米通商交渉で作業部会立ち上げ 戦略立案へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story