コラム

がん細胞だけ攻撃する免疫細胞をオーダーメイドで作ることに成功 ゲノム編集技術の歴史と未来

2022年11月15日(火)11時20分

深刻なのは倫理問題です。簡便さと安価から世界の研究室に普及したことで、少し前まではSFの世界の話だった「デザイナーベビー」が実際に中国で誕生してしまいました。

中国の南方科技大の賀建奎・元副教授は、17年3月から18年11月にかけて7組のカップルの受精卵にゲノム編集を施し、3名の「ゲノム編集した赤ちゃん」が生まれたと発表しました。賀氏は「カップルの父親がいずれもHIV感染していたため、子への感染を防ぐ狙いだった」と説明しましたが、「倫理に反する」と国際的な非難を浴びました。中国の裁判所は賀氏に懲役3年の実刑判決を下しました。

ゲノム編集技術は賛否両論ありますが、今後、この技術が加速的に発展することは間違いありません。中国のケースの恐ろしさは、1人の研究者の倫理観によって行われ、本人と2人の実験助手のみで「ヒト受精卵のゲノム編集」が完遂できてしまったことです。日本でも技術的に行える場所は少なくありません。早急に生命倫理の議論、実験施設の監視・報告体制の整備、法の整備などが必要でしょう。

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2025年12月2日号(11月26日発売)は「ガザの叫びを聞け」特集。「天井なき監獄」を生きる若者たちがつづった10年の記録[PLUS]強硬中国のトリセツ

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プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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