コラム

「17歳に引き上げ」のフィギュアから考える、一部競技に年齢制限が必要な理由

2022年06月14日(火)11時30分
北京五輪女子シングルのFSに出場したカミラ・ワリエワ選手

ワリエワ選手のドーピング違反は年齢制限引き上げの決定打となった(写真は2月17日、北京五輪女子シングルのFSに出場した同選手) Eloisa Lopez-REUTERS

<成長過程の子供の身体は骨が弱い、筋力が弱い、関節が柔らかいという特徴がある。度が過ぎた運動や長時間の練習は、10代アスリートの将来を台無しにしかねない>

国際スケート連盟(ISU)は7日、タイで総会を開きました。オリンピックや世界選手権などの国際大会に出場できる選手の年齢を、現在の15歳から17歳に引き上げる案を採決したところ、100対16の賛成多数で可決されました。新たなルールが適用されるのは2024-25シーズン以降で、22-23シーズンは現行のルール通り、23-24シーズンは16歳と段階的に適用していきます。

ISUは年齢制限を引き上げる理由を「選手の身体やメンタルヘルス、ウェルビーイングを守るため」と説明しています。20年12月から21年1月に実施したISU選手委員会の調査では、回答者の86.2パーセントが改定案に賛成したと言います。

さらに、今年2月の北京五輪でフィギュアスケート女子シングルの優勝候補だったロシアのカミラ・ワリエワ選手にドーピング違反が見つかったことは、年齢制限引き上げの決定的な契機となりました。

ワリエワ選手は当時15歳で、世界反ドーピング機関(WADA)の規定で16歳未満の「要保護者」にあたることなどを考慮して、スポーツ仲裁裁判所(CAS)が違反にも関わらずオリンピックに継続して出場することを認めたことも物議を醸しました。

バンクーバー五輪フィギュア女子シングル金メダリストのキム・ヨナ選手は、「ドーピング違反したアスリートは競技できない。この基本は例外なく守られなければならない。全ての選手の努力と夢は平等に尊い」とSNSで反発する発言をしました。

4回転ジャンプ成功の島田麻央選手はミラノ五輪出場ならず

今回の決定について、日本スケート連盟の竹内洋輔フィギュア強化部長は「選手の発育発達や、障害を予防する観点から日本は賛同した。ジュニア期の年数が増えるため、強化方針が若干変わる」と話しています。

また、フィギュアスケートばかりが注目されていますが、国際スケート連盟に所属する他のスケート競技(スピードスケート、ショートトラック、シンクロナイズドスケーティング)の選手も、年齢制限引き上げの対象になります。

次回の26年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪は、スケート競技の選手は前年の7月1日時点で17歳以上の選手が選考対象となります。この改定で、4回転ジャンプを成功させたことで注目されているフィギュア女子の島田麻央選手(13)は、25年7月1日時点で16歳のため出場できなくなりました。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story