コラム

微生物から大量のタンパク質、砂漠で北極で生産可... 代替食品はここまできた

2021年12月07日(火)11時30分

実際に、微生物、空気、太陽光発電を使って人間用のタンパク質を商業生産する取り組みも始まっています。

フィンランドのソーラーフーズ社は、微生物由来タンパク質食品「ソレイン(Solein)」の開発で、2021年4月までに3500万ユーロ(約45億円)の資金調達を得ています。同社は2023年初頭に生産工場を稼動させると発表しています。

ソレインは、タンパク質60〜75%、炭水化物10〜20%、脂肪4〜10%、ミネラル4〜10%で構成されています。牛肉の赤身のタンパク質は約20%、乾燥大豆のタンパク質は約30%なので、非常に多くのタンパク質を含んでいます。

同社の公式資料によると、ソレインから1キロのタンパク質を作るのに必要な水は1000リットルで、牛肉の700分の1、植物性タンパク質の100分の1です。同様に、1キロのタンパク質を作るのに必要な土地は1平方メートルで、牛肉が200分の1、植物性タンパク質が20分の1で済みます。さらに、生産プロセスで排出される二酸化炭素量は牛肉の200分の1、植物性タンパク質の5分の1で、砂漠でも北極圏でも生産可能だと説明します。

良いことずくめに思えるソレインですが、味はなく、肉の食感もありません。代替肉というよりは代替タンパク質と呼ぶほうがふさわしいでしょう。なので、最初は食事よりもプロテイン・ドリンク用の粉末などに利用すると、抵抗感は少ないかもしれません。

『ソイレント・グリーン』の世界では、貧困者が選択なく摂取する代替食品。けれど、50年後の現実世界では、人口爆発を予測した上で限りある地球資源をやりくりする方策として、動物や環境にも配慮する成熟した社会の成果として生産されています。今までに馴染みがなかった方も、さらなる未来に思いを馳せながら試してみるのはいかがでしょうか。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米上院、減税・歳出法案審議 19時間継続もめどたた

ビジネス

仏製造業PMI、6月48.1に低下 新規受注や生産

ビジネス

ユーロ圏消費者物価、6月速報は前年比+2.0% E

ビジネス

英製造業PMI、6月改定47.7に上昇 3カ月連続
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引き…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story