コラム

ネコはイヌより薄情? 2021年にわかった、ニャンとも言えない習性

2021年12月28日(火)11時30分

3. 2021年イグノーベル生物学賞は「ネコ語の研究」が受賞

スウェーデン・ルンド大学のスザンヌ・シュッツ氏は、2011年からネコの鳴き声を音響学的に分析しています。一連の研究で、シュッツ氏はネコが13種以上の鳴き声を使い分け、しかも同じ種類の鳴き声でも音の高低や持続時間などで、ヒトに様々な感情を伝えていることを明らかにしました。この研究成果は、2021年イグノーベル生物学賞を受賞しました。

ネコの13種の鳴き声とは、プァーイング (喉をゴロゴロ鳴らす) 、チャーピング (甲高い声を出す) 、チャタリング (口を開閉してカカカと鳴く) 、トリリング (クルルと鳴く) 、ツイードリング (キーキー言う) 、ミャミャイング (ミャーミャーつぶやく) 、ニャーリング (ニャーと鳴く) 、モーニング (うめき声を出す) 、スクィーキング (キュッキュッと鳴く) 、ヒスイング (シューっと鳴く) 、ヨーリング (悲しい声を出す) 、ハウリング (遠吠えのように鳴く) 、グローウィング (ウーッとうなる) です。

シュッツ氏はネコの鳴き声を何百も収集して、鳴き方や周波数などで分類しました。例えば、同じ 「ニャー」 という鳴き声でも、ご飯(エサ)を食べている時と、動物病院で診察を待っている時では違いがありました。音は、周波数の数値が高くなると高音になります。「ニャー」の周波数を測定すると、ご飯を食べている時には上昇傾向、診察を待っている時には下降傾向を示しました。この結果は、有意差(偶然だとは考えにくく、意味があると考えられること)がありました。

さらに、「ご飯タイムのニャー」と「診察前のニャー」の違いを、ネコを飼ったことがある人と飼ったことがない人に聞き分けてもらうテストを行いました。すると、ネコを飼ったことのある人はない人と比べて、高い精度で聞き分けられるという結果になりました。特に「診察前のニャー」は、飼ったことがある人はほぼわかりました。

シュッツ氏は、「ネコはヒトがそばにいる時、状況に応じて『ニャー』を使い分けている可能性があって、ヒトもそのイントネーションなどでネコの言いたいことを識別している可能性がある」と結論付けています。

もっとも、ネコ語解明への道は簡単ではなさそうです。

シュッツ氏は、3匹の飼いネコの538回分の鳴き声を、ヒトの言語学と同じ方法でアプローチしてみました。けれど、「ネコで最も多いのはミャミャイングとニャーリングの組み合わせの発声」ということはわかりましたが、個体差、性別差、イントネーションのばらつきが大きいため、人間と同じ方法では 「ネコ語」を理解するのは難しいとわかりました。

科学技術白書では、イヌと同様に2040年にはヒトとネコも会話できるようになると予想しています。今回紹介した研究からも、ネコとコミュニケーションを取るには、飼い主が愛情を持ってネコの性格や言いたいことを理解してあげることが必要なようです。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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