コラム

NASA、中国、UAE... 2021年が「火星探査ブーム」なワケ

2021年10月19日(火)11時35分

MMXの目的地は火星そのものではなく、火星衛星のフォボスとダイモスです。

火星衛星の起源には「小惑星が火星に捕獲されたもの」とする捕獲説と、「火星への巨大衝突によって生じた破片が集合して形成されたもの」とする巨大衝突説の2説があります。フォボスからのサンプルの持ち帰りや、2つの衛星の分光学的な探査によって、どちらの説が正しいのかを明らかにすることが目標です。なお、地球と月にも同じ2説が唱えられていましたが、アポロ計画で持ち帰った「月の石」によって、巨大衝突説が正しかったことが分かりました。

MMXには、もう一つ、大きな目標があります。フォボスは火星に近いので、たとえ捕獲説が正しかったとしても、火星に過去に小天体が落ちた時に飛び散った火星表面物質が、ダメージが少ない状態で多量にフォボス表面に散らばっています。MMXは地球帰還予定が2029年です。つまり、日本は世界で初めて火星衛星物質を持ち帰るだけでなく、2031年に持ち帰るNASAのミッションよりも早く、火星本体の物質を持ち帰る可能性が高いのです。

人類史上初の「地球外生命の痕跡を発見」を日本チームが叶えてくれるでしょうか。8年後が楽しみですね。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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