コラム

NASA、中国、UAE... 2021年が「火星探査ブーム」なワケ

2021年10月19日(火)11時35分
火星

火星探査機の打ち上げには、最適なタイミングがある(写真はイメージです) Cobalt88-iStock

<今年2月から5月にかけて、米NASA、中国、UAEの探査機が立て続けに火星へと到達。各国のチャレンジは、なぜこれほど同時期に集中したのか?>

最近の天文関係のニュースで、火星の話題が目立つなと不思議に思っている人は多いかもしれません。

実は今年2月から5月にかけて、米NASAの着陸探査車「パーシビアランス(Perseverance)」と火星ヘリコプター「インジェニュイティ(Ingenuity)」、中国政府の着陸探査車「祝融(Zhurong)」、アラブ首長国連邦(UAE)のムハンマド・ビン・ラシード宇宙センター(MBRSC)による火星軌道を飛ぶ探査機「ホープ(HOPE)」の4種の探査装置が、次々に火星に到達したからなのです。

火星の探査は、火星周回軌道上から写真を撮ったり大気を調査したりする場合と、探査機を着陸させて表面の調査をする場合があります。

世界で初めて火星周回軌道に入った探査機は、1971年11月のマリナー9号で、着陸に成功したのは同年12月のソビエト連邦(当時)のマルス3号です。けれどマルス3号は着陸後、20秒で信号が途絶えました。2年後に打ち上げたマルス6号も、着陸が確認された途端に通信できなくなりました。本格的な探査機による火星表面の調査は、1976年7月にNASAのバイキング1号が着陸し、4年間にわたって活動したことから始まります。

NASAは現在、4つの探査機を使って火星表面近くで調査をしています。2012年8月に火星に着陸した探査車「キュリオシティ(Curiosity)」、2018年11月に着陸した"移動できない"探査機「インサイト(InSight)」、そして今年、火星に到達したパーシビアランスとインジェニュイティです。これまでにキュリオシティは火星の水の流れの痕跡を、インサイトは地震活動を発見しており、惑星学に新しい知見をもたらしています。

火星有人探査計画への収穫

パーシビアランスは、今年の2月19日(米東部時間)に火星に着地しました。今回のミッションは、生命の痕跡を探すことと、火星の有人探査や移住の可能性を探ることです。

パーシビアランスに搭載されていたインジェニュイティは4月19日に、火星で初めてのヘリ飛行に成功しました。インジェニュイティは、地球表面の大気圧の1%未満しかない火星の表面近くで、ローターを毎分2500回転で高速回転させて、離陸、上昇、ホバリング(空中停止)、降下、着陸と、ヘリコプター特有の動作をすべて達成しました。

翌20日には、パーシビアランスが火星大気の約95%を占める二酸化炭素を高温で加熱分解し、人工的に酸素を生成することに成功。将来的には、火星で生成した酸素と水素から水も作り出せる可能性があり、2030年代前半に予定されている火星有人探査計画に役立てられると考えられています。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏製造業PMI、10月は50 輸出受注が4カ

ビジネス

独製造業PMI、10月改定49.6 生産減速

ワールド

高市首相との会談「普通のこと」、台湾代表 中国批判

ワールド

米韓制服組トップ、地域安保「複雑で不安定」 米長官
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story