コラム

人類の意識進化を促進。脳への直接刺激技術にブレークスルー、10年以内の実用化目指す=TransTech2019から

2019年12月06日(金)14時20分

そうした生き方で満足できるのならいいが、もしそうした生き方に苦しさを感じるのであれば、そういう人には2つ目、3つ目の対処方法があるという。2つ目の対処方法は、「恐れ」「欠乏感」の存在を認め、それらとうまく付き合うという方法だ。Martin博士によると、うまく付き合う方法を研究するのがポジティブ心理学と呼ばれる比較的新しい心理学の研究領域。1990年代以降、この領域の研究は飛躍的に進み、既にいろいろな手法が編み出されているという。「(うまく付き合う手法に関する)情報が既に無数にある。この問題は既に解決済みと言ってもいいだろう」と言う。


Yukawa191206_2.jpg

ただ、ポジティブ心理学の手法を実行する人があまりいないという。なぜなら「感謝すべきことを毎朝5つ書き出す」、「過去の出来事を思い出し、ボジティブにとらえなおす」などといったポジティブ心理学のエクササイズで幸せになるには、毎日かなりの時間と努力が必要。「どうせ努力をするのなら、『車を買うために仕事をがんばる』というような1つ目の対処方法を選ぶ人が多い」とMartin教授は解説する。

テクノロジーで「自己超越」を可能に

3つ目の対処方法は、余計な「恐れ」「欠乏感」を超越した意識状態、つまりマズローの言うところの「自己超越」の状態に入るというものだ。心理学の研究領域で言うと、トランスパーソナル心理学と呼ばれる領域になる。「恐れ」「欠乏感」が存在することを許容し、うまく付き合っていくという二番目の手法ではなく、「恐れ」「欠乏感」のない意識状態になるよう脳の回路を組み替えてしまおうというやり方だ。

TransTechは、ポジティブ心理学とトランスパーソナル心理学の両方が目指す意識状態をテクノロジーで実現しようとするテクノロジーの領域だが、特にMartin教授のグループは、トランスパーソナル心理学が目指す「自己超越」をテクノロジーで可能にすべく研究を続けてきた。

Martin博士は4カ月間の瞑想などの訓練で自己超越を目指すプログラムを開発、約7割の受講者が意識の変容に成功したという結果を出している。(関連記事:瞑想4カ月で7割の人が悟りの領域に!?TransTech Conferenceから

しかしそうした訓練なしに、テクノロジーを使ってより簡単に自己超越できないだろうか。それがここ数年の同博士の研究テーマで、電気や電磁波、近赤外線、超音波などを脳に直接照射する研究を続けていた。昨年のカンファレンスでは、「超音波だけが脳の深部に到達できるので期待が持てる」という発表があったが、今年に入って超音波による脳への直接照射にフォーカスして研究を続けたところ、超音波こそが自己超越の最有望技術であると確信したという。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 8

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story