コラム

2017年はAIビジネス大爆発の年。米国、中国が大躍進、そのとき日本は?

2017年01月10日(火)15時20分

 もちろん大本命は、自動車であり、医療、製造業といった業界だが、AIの影響力がこの3つの業界だけにとどまるわけはない。米スタンフォード大学AI研究所の元所長で、現在はBaiduのチーフサイエンティストのAndrew Ng(アンドリュー・エン)氏は、「今度5年間にディープラーニングの影響を一切受けない業界があるのかどうか、学生たちと調査・議論したことがある。ある程度の規模の業界の中で、影響を受けない業界は1つもない、という結論になった」と語っている。

日本で動き出したのは一部企業のみ

 そういう意味で2017年は、本格的なAI革命の幕開けの年と言ってもいいだろう。

 しかし、それは世界規模で見た話だ。動きが速いのは、もちろん米国。そして注目すべきは中国だ。

 AI時代のリーディングカンパニー米NVIDIA(エヌビディア)の日本法人の井﨑武士氏によると、今はディープラーニングの関連技術が次々と開発されている段階。関連論文が毎日2、3本のペースで発表されているような状態だという。「中でもスタートアップが新しいアルゴリズム(計算式)を次々と生み出しています。ディープラーニングのスタートアップはもちろんシリコンバレーにたくさん存在しますが、中国にもシリコンバレーと同じくらい多くのスタートアップが存在し、新しいアルゴリズムを次々と生み出しています」と言う。

【参考記事】人工知能の未来を読みたければNVIDIAの動きを追え

 多種多様なアルゴリズムが次々と登場する中で、自分の業界に関連しそうなアルゴリズムを生み出したスタートアップと組み、そのアルゴリズムと自社が持つ豊富な顧客データなどとを組み合わせ、新たな製品やサービスを、いち早く世の中に出す。今は、そんな競争の真っ只中だ。当然、AIスタートアップを多く抱える米国と中国が、圧倒的に有利な状況だ。

 翻って日本はどうか。もちろん日本のリーディングカンパニーは、黙っていない。トヨタ、リクルートなど動きの速い企業は、AI研究所をシリコンバレーに設置するなど際立った動きをしている。製造業ではファナックが、NVIDIAと協力体制を築いた。AIとロボットで工場を全自動化してしまえば、安い人件費は、もはや競争優位性にはならない。安い人件費を求めて中国、インドに逃げていった製造業が、国内に戻ってくる可能性がある。日本の製造業が、再び世界をリードできるようになるかもしれない。今こそ勝負のときだ。

 一方でスタートアップの領域でも、国内には世界のトップレベルの企業が存在する。トヨタ、ファナックと組んだPreferred Networksは、世界の最前線を突っ走っているし、LeapMind、ExaIntelligenceなどといった骨太のAIベンチャーも登場した。

 とはいうものの、産業界全体で見れば「現段階で実際のサービスに落とし込めている日本企業は、数えるほどしかいない状態」(井崎氏)という。業界最大手はさすがに全社を挙げてAIに取り組んでいたりするが、業界2番手、3番手となると、AIに取り組んでいるのは研究所や一部部署だけ。4番手以下の企業は静観しているだけ、という業界が多い。「日本企業は、ネットでもモバイルでも海外に覇権を奪われた。AIででも、覇権を取られていいんでしょうか。とりあえず自動車、製造業のAI化を、世界に先駆けて進めることが急務だと思います」と井崎氏は力説する。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA

ビジネス

根強いインフレ、金融安定への主要リスク=FRB半期

ビジネス

英インフレ、今後3年間で目標2%に向け推移=ラムス

ビジネス

米国株式市場=S&Pとナスダック下落、ネットフリッ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story