コラム

「最悪のシナリオ」回避に動いた民主党支持者の危機感

2020年03月12日(木)18時40分

バイデン勝利の背景には民主党にとっての「最悪のシナリオ」を避けたいという党支持者の団結があった Lyle Grillot-REUTERS

<ブティジェッジとクロブチャーのスーパーチューズデー前の撤退には、多くの民主党支持者も驚かされた>

スーパーチューズデーの前に、トム・ステイヤー、ピート・ブティジェッジ、エイミー・クロブチャーの3人の有力候補が撤退し、ジョー・バイデン元副大統領はスーパーチューズデーで印象的な勝利を収めた。

そして、地元マサチューセッツ州で勝利できず3位に終わったエリザベス・ウォーレンと選挙資金をつぎ込んだ南部で期待した結果を得られなかったマイケル・ブルームバーグが予備選を撤退し、予備選は実質的にバイデンとバーニー・サンダース上院議員の戦いになった。その状況で行われたのが「スーパーチューズデーII」と呼ばれる3月10日の予備選だ。

アイダホ、ミシガン、ミズーリ、ミシシッピ、ノースダコタ、ワシントンの6州で同時に行われた予備選のうち最も注目されていたのがミシガンだ。2016年の予備選ではヒラリー・クリントンの勝利が予測されていたのにサンダースがクリントンに1.5%の差をつけて勝利し、これによりサンダース陣営が勢いをつけた。また、ミシガンは、ドナルド・トランプがクリントンに0.3%の僅差で勝利した州でもある。

スーパーチューズデーより前の世論調査では、ミシガンでのサンダースの支持はトップだった。ゆえに、サンダース陣営は、ここで勝利を収めて選挙の流れを変えることを期待していた。

民主党員が抱える不安

だが、10日の結果(99%開票時点)は、バイデンが52.9%、サンダースが36.5%でバイデンの圧倒的な勝利だった。

スーパーチューズデーとスーパーチューズデーIIでの劇的な変化により、バイデン勝利の確率は、ネイト・シルバー(選挙結果の予測で有名な統計学者)のサイト「FiveThirtyEight」によると99%になった。

筆者は前回のコラムで民主党にとっての「最悪のシナリオ」について語った。

リベラルで知られるマサチューセッツ州の民主党員が多い町に住む筆者は、スーパーチューズデーの前に近所の人から「私はウォーレンが好きだけれど、家族や知り合いから『票を無駄にしてはいけない(つまり、バイデンに票を投じるべきだ)』と言われて悩んでいる」と相談されたのだが、それほど「最悪のシナリオ」への不安は蔓延しているようだった。他にも「民主党が破壊され、上院と下院両方のマジョリティを失ったら、民主党の大統領が誕生したところで何もできない」と熱く語る者もいた。

マサチューセッツ州でバイデンが1位になり、ウォーレンが3位に終わった結果の背景には、長年の民主党員が抱いていたこのような不安が否定できない。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼総統、中国軍事演習終了後にあらためて相互理

ビジネス

ロシア事業手掛ける欧州の銀行は多くのリスクに直面=

ビジネス

ECB、利下げの必要性でコンセンサス高まる=伊中銀

ビジネス

G7、ロシア凍結資産活用は首脳会議で判断 中国の過
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    アウディーイウカ近郊の「地雷原」に突っ込んだロシ…

  • 5

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 6

    なぜ? 大胆なマタニティルックを次々披露するヘイリ…

  • 7

    批判浴びる「女子バスケ界の新星」を激励...ケイトリ…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    これ以上の「動員」は無理か...プーチン大統領、「現…

  • 10

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 4

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 7

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 8

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 9

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 10

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story