コラム

「座布団一枚!」かつて共通文化を作ったテレビは、今も子育てに必要か?

2022年09月02日(金)13時44分
トニー・ラズロ
家族

IMTMPHOTO/ISTOCK

<最近の調査によると、10~20代の半数はテレビをほとんど観ない。今はテレビを観ていなくても社会ののけ者になる心配はなく、むしろ観ない人同士で話が盛り上がる時代に?>

「子供にテレビを観(み)させていないんだって?」「ええ」「少しも?」「はい。だって、テレビを持っていないんだ。うちでは誰もテレビを観ていない」「......」

これは日本人の友達とのやりとりなのだが、このときの静寂は僕には読み取りにくいものだった。この人は私の息子がテレビを観ずに生活してきた事実をどう受け止めた? ちょっと珍しい話として? それともかわいそうな話として? 彼は眉間にしわを寄せて何かを言いたそうにも見えた。

日本で真っすぐ育つのに、テレビは欠かせないものなのか。気が付けば、かれこれ十数年、テレビなし生活を送っている。きっかけは約15年前、倅(せがれ)の誕生。赤ちゃんが健康的に育つにはどのくらいテレビを観させていいかについて調べたとき、多くの小児科医が提唱している指針を知って、ビックリ仰天。

なんと「2歳までは1日0時間」だった(今は基準は少し緩和されている)。先生たち、0時間は非現実的だよと思いつつ、テレビ視聴に関する工夫を始めた。

そう大げさなことではなく、最初はテレビのつけすぎを減らすため、地上波などをリアルタイムで観るのをやめただけ。その代わりに、事前に録画した番組を一つ一つ再生して子供と一緒に観ることにした。

その後のドイツ移住に伴ってテレビを処分し、現地では動画コンテンツをパソコンやタブレット、スマホなどで観ていた。そして3年前に日本に戻って以後もその生活を続けている。

さて息子が大きくなった今、テレビなし生活をどう考えるか。結果として、「だらだら観」を避けられてきたと言える。

息子はYouTubeなどの動画は観るが、パソコンやスマホは「動画専用機」ではないためか、テレビのような長時間視聴の習慣につながりにくいようだ。世間ではスマホ依存が問題視されており、異論はあるかもしれないが、テレビのない家で育った私の息子は動画の「だらだら観」をしない。

児童期のテレビなどの観すぎは肥満、視力低下、糖尿病といった問題を引き起こしやすいとも指摘されているので、これでよかったと思う。息子が一生、生活習慣病にかからないとは当然ながら言えないが、今のところは健康だ。

ただ、冒頭の「日本の子育てにテレビは必要か」という問いに戻ると、気になっていることがある。それは、日本人の間には日本文化に関する共通認識があり、その一部はテレビによってつくられているということ。

あの人気番組のテーマ曲。あのCMのキャッチフレーズ。YouTubeやネットフリックスの時代になる前からケーブルテレビが普及していたアメリカやドイツでは、数十とか100を超えるチャンネルがあったので、社会の共通認識をつくるテレビの機能は日本ほど強くなかった。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story