最新記事

クーデター

ミャンマー軍、インド国境近くの住民10人を虐殺 13歳少年や記者らを後手に縛り......

2022年1月12日(水)19時08分
大塚智彦

しかし現地マトゥピ郡区のPDFのリーダーは地元メディアに対して、軍政報道官の説明を否定。10人の犠牲者の誰一人として銃弾による傷がなく、9人が後ろ手に縛られたうえで喉を切られて死亡しており、軍による残虐な虐殺であり重大な人権侵害でもある、と証言している。

国境を越えたインド側に拠点を置くチン州の人権団体も「少年や記者の殺害や拘束した住民を人間の盾として戦闘に駆り出すなど軍による戦争犯罪は後を絶たない」と軍を非難している。

軍による攻勢から逃れるためマトゥピ郡区の住民の多くが国境を越えてインド側に脱出しており、その数は約4000人に達しているという。

軍政の一方的停戦も実効を伴わず

現地マトゥピ郡区では10日まで軍と武装市民組織PDFやチンランド防衛隊(CDF)との戦闘が続き、現在複数の村はCDFの支配下にあり、軍の反転攻勢を警戒しているという。そんな中マトゥピ郡区の軍部隊を増援するため約90台の軍のトラックが同じチン州のミンタッからマトゥピに向かっているとの情報もあり、現地の緊張が高まっているという。

これに先立つ1月7、8日、軍政は首都ヤンゴンを訪問したカンボジアのフン・セン首相とミン・アウン・フライン国軍司令官とのトップ会談を受けて、少数民族武装勢力との一方的な停戦を宣言していた。

これはミャンマー、カンボジアが共にメンバーである東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国であるカンボジア首相の訪問に対して「一定の敬意を示したうえでの和平追求」の姿勢を示したものといえる。

しかし、チン州やサガイン地方域などでは停戦宣言後も少数民族武装勢力や武装市民と軍部隊との戦闘は続いており、宣言があくまで国際社会に向けた軍政の「ポーズ」に過ぎないことが明らかになっている。

軍は拘束した住民を人間の盾として利用したり、ヘリコプターから空爆をしたりなど各地で戦闘を激化。2月1日のクーデター1周年に向けて、治安安定をアピールするために武装市民や少数民族の武装勢力への攻撃圧力を格段に強めているとみられ、戦闘員のみならず非武装の一般市民の犠牲者も増え続けている。

タイ・バンコクに拠点を置くミャンマーの人権団体「政治犯支援協会(AAPP)」によるとクーデター発生以降、1月10日現在までに治安当局によって殺害された市民は1461人に上り、逮捕者は8530人となった。

2月にはクーデターから1年となるミャンマー情勢だが、さらに混迷の度を増している。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ガザ南部で軍事活動を毎日一時停止 支援

ワールド

中国は台湾「排除」を国家の大義と認識、頼総統が士官

ワールド

米候補者討論会でマイク消音活用、主催CNNが方針 

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年1月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「珍しい」とされる理由

  • 2

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆発...死者60人以上の攻撃「映像」ウクライナ公開

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    メーガン妃「ご愛用ブランド」がイギリス王室で愛さ…

  • 5

    米モデル、娘との水着ツーショット写真が「性的すぎ…

  • 6

    FRBの利下げ開始は後ずれしない~円安局面は終焉へ~

  • 7

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 8

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    「ノーベル文学賞らしい要素」ゼロ...「短編小説の女…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 5

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 6

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 7

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 8

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 9

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 10

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 9

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中