最新記事

南北会談

朝鮮戦争「終戦協定」は中国が不可欠──韓国は仲介の資格しかない

2018年4月26日(木)13時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

だから北朝鮮と中国は「アメリカは休戦協定違反だ」と長年主張してきたのである。

北朝鮮の肩を持つように思われたくないし、絶対にそのような誤解をしてほしくないが、客観的事実として、休戦協定違反をしているのはアメリカであることは明白なのである。筆者はこの「客観的事実」を『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』の第3章「北朝鮮問題と中朝関係の真相」で詳述した。

休戦協定を締結するに当たって、アメリカの違反行為を促したのは韓国の当時の李承晩大統領で、彼はどうしても休戦したくなく、アメリカが休戦協定を提案したことに反対した。自分一人ででも、絶対に戦いつづけて韓国が朝鮮半島を統一するのだと主張した。そこでアメリカはやむなく、李承晩をなだめるために米韓軍事同盟を締結したに過ぎない。その意味では朝鮮半島問題を生んだ「真犯人」は韓国であり、そもそも朝鮮戦争を起こしたのは北朝鮮の金日成(当時は主席)なので、「真犯人」は北朝鮮である、ということもできる。

もっとも、「真犯人」をたどれば、そもそも朝鮮半島に38度線を引いたアメリカと旧ソ連のせいだということができ、なぜ38度線が引かれたのかに関して言うならば、日本の朝鮮半島統治があったからだということになる。日本敗戦直後、旧ソ連の南下の中で米ソの間で行なわれた領土収奪合戦により引かれた線だ。南北首脳会談が、この38度線の撤廃にまでやがてつながるかどうかは別だが、少なくとも日朝国交樹立という事態になれば、日本にとっての戦後処理の終結を包含し、他人事ではなくなる。日朝間ではまだ戦後賠償に関する協議がなされていないからだ。

「終戦の意思を盛り込む」までが限界

いずれにせよ、この問題に関して南北首脳会談で語られるのは、せいいっぱい「休戦状態にある朝鮮戦争にピリオドを打ち、終戦に持っていきたい」という希望に対する意思表示をするところに留まると考えるべきだろう。つまり平和体制を構築したいという共同宣言を出すことだ。それ以上のことはできない。

日本は、このことを肝に銘じて発言に注意すべきであろうと考える。


endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中