移民の詩――大泉ブラジルタウン物語』(水野龍哉著、CCCメディアハウス)は、「ブラジル人の町」で取材を行い、そのコミュニティで生きる日系ブラジル人たちの過去、現在、苦悩、喜びなどを浮き彫りにした質の高いノンフィクション。

 たしかテレビで見たのだったと思うが、その町のことは私も知っていた。おそらく、そういう人は少なくないはずだ。マスコミに登場したことは一度や二度ではなく、相応の露出度がこの町にはあるからだ。

 とはいえそれは、ファクトに基づく知識ではなく、漠然としたイメージでしかなかったのではないだろうか。テレビで伝えられるものには限界があるのだから当然だが、これまで私たちには、外形だけしか見えていなかったのかもしれないということだ。だからこそ、あえてそこに踏み込み、そこで暮らす人々と交流を持ち、さまざまなエピソードを引き出してみせた本書の意義は大きい。

 

 群馬県邑楽(おうら)郡、大泉町(まち)。県南東部の端っこ、利根川を挟んで埼玉県熊谷市と向き合うこの町は、全国で最も外国人の比率が高い市町村の一つとして知られている。
 町民約四万人のうち、外国人住民の比率は十五パーセント。その約七割、すなわち町民の十人に一人が日系を中心としたブラジル人である。無論、ブラジル人の比率も日本で一番高い。(7ページより)

 1990年代の終わりごろ、町で行われた日系ブラジル人たちによるサンバパレードについての記事を全国紙の社会面で見つけたことを発端として、著者はこの町に関心を持つようになる。つまり最初は、この町のことを「なんとなく知っている」人たちとさほど変わらなかったわけだが、「いつかこの町の人々とじっくり膝を突き合わせ、その人間模様を描いてみたい」という気持ちは、著者の内部でどんどん大きくなっていったようだ。

【参考記事】郊外の多文化主義(1)

 ところで大泉町といえば、やはりサンバである。単純に考えれば、サンバが群馬県の端っこの町の象徴であるという事実は、それ自体がちょっとおかしい。しかし町公認のサンバチームがあることからもわかるとおり、町がそのイメージを積極的に打ち出している。だから、結果的には"そういうこと"になっているのだ。だが日系ブラジル人女性への取材を進めるなかで、この町に暮らす日系ブラジル人の人々とサンバの関係性についての意外な事実が明らかにされる。