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地球温暖化

オバマが今頃COP15出席を決めたワケ

コペンハーゲン会議への期待がしぼんだからこそ、米大統領にとっては政治的うまみがある

2009年11月26日(木)17時03分
ダニエル・ストーン(ワシントン支局)

ひび割れる期待 気候変動への危機感は高まっているが交渉は遅々として進まない(中国・甘粛省の干上がった貯水池) CDIC-Reuters

 国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)は12月7日にデンマークの首都コペンハーゲンで開幕する。この会議に、世界の環境保護団体は1年以上も前から高い関心を寄せてきた。

 1997年の京都会議以来、地球環境をめぐる議論がこれほど国際的な注目を集めたことはなかった。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの教授で気候変動についての研究でも知られるニコラス・スターンは、COP15を「第2次大戦以降で最も重要な会議」と呼んでいる。

 ところが皮肉なことに、会議が初期の目的を果たせないことがほぼ明らかになった今頃になって、バラク・オバマ米大統領は出席の意向を明らかにした。誰も高い期待を寄せなくなったおかげで、COP15は政治的にうまみのあるイベントになったからだ。

「オバマはCOP15を欠席する見込み」だと本誌を含む複数のメディアが報じたのは10月下旬のこと。ノーベル賞の授賞式が行なわれるノルウェーのオスロは「(コペンハーゲンに)十分に近い」と、ある高官は匿名で語った。

 つまりあえてコペンハーゲンには乗り込まず、オバマはオスロからアメリカの削減目標について発表する。言い換えれば会議の場には近づきすぎないようにしたいと言うわけだ。

 せっかく会議に出席したのに新しい議定書が採択されないような事態になれば、その責任者と名指しされるのは世界のスーパースター、オバマかもしれない。そうなればオバマには存在感の軽い政治家とのイメージが染み付いてしまう可能性がある。アメリカ国内の保守派に対しては、国際的なオバマ人気も諸外国への融和的な姿勢もアメリカの利益にはならないと主張するきっかけを与えることになるかもしれない。

「ダメ元」なら失うものなし

 オバマは11月9日、「大統領はリスクを取りたがらない」という批判を封じ込めるために、「自分の出席が(交渉の)決め手になるならば」COP15に出席すると述べた。これは「成功が確実でなければ行かない」と言っているようなものだ。

 それ以降、COP15が成功する見込みはどんどん薄くなっていった。アメリカ政府の交渉担当者は、途上国、特に中国やインドを説得することの大変さをぼやいていた。

 問題はアメリカ国内にもあった。上院における温暖化対策法案の審議の遅れは、COP15の前にアメリカが長期的な排出削減について法律で定める気がない、もしかすると目標をはっきり決める気もないことを世界に示してしまった。

 11月半ばになると、COP15で新たな議定書を採択するという希望は風前の灯となっていた。次善の策としてデンマークのラース・ロッケ・ラスムセン首相は、法的拘束力はないが数値目標を含んだ合意を採択してはどうかと提案した。新議定書を採択するという当初の目的を放棄したとも受け取れる内容だが、COP15の成果を少しでも後につなげるための手段と見ることもできる。

 そんな時、ホワイトハウスからオバマがCOP15に出席するとの情報がリークされ、その後公式に発表された。何が起きたのか? 交渉への期待感が低下したことでオバマに有利な状況が生まれたのだ。

 交渉が実質的にすでにこう着状態に陥っているなら、たとえ会議が不首尾に終わってもオバマの責任だとは言われない。それどころか彼は、いくらか成果を上げることができるかもしれない。多少なりとも成果があれば、ないよりはましだと主張することも、自分の手柄にすることもできるだろう。

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