最新記事

中国経済

中国経済の減速が生んだ、新たな「中国脅威論」...この「物語」が広まることで得するのは誰か?

A Wounded Dragon?

2023年9月8日(金)17時46分
ジェームズ・ガルブレイス(テキサス大学オースティン校リンドン・B・ジョンソン公共政策大学院教授)
中国経済イメージ

HUNG CHIN LIU/iStock

<中国経済が減速しているのは現実だが、そこで語られる新たな「中国経済脅威論」はアメリカの政治力学の副産物だ>

ついこの間まで、中国はアメリカにとって恐るべき「競争相手」だった。それが今や傷ついた龍となり、その衰退が脅威になるという新しい「物語」が語られている。

ニューヨーク・タイムズ紙のマイケル・D・シアーによると、米政府は「高い失業率と労働人口の高齢化に苦しむ中国が、世界経済の中心で『時限爆弾』になる」ことを懸念している。ジョー・バイデン米大統領は「悪い人々が問題を抱えると、悪いことをする」と警鐘を鳴らした。

シアーは中国の衰退の理由の1つとして、次のように述べている。「(バイデン)大統領は中国の台頭を封じ込め、アメリカで開発された技術を使って彼らが軍事的利益を得ることを制限するために、積極的に動いた」。アメリカの新しい半導体規制の対象を考えれば、「非軍事的利益」も付け加えていいかもしれない。

ニューヨーク・タイムズの経済記者ピーター・S・グッドマンは、新しい物語を裏付ける「多くの出来事」を挙げている。中国の輸出入の減少、「食料品からマンションまでさまざまな商品」の価格の下落、住宅不況、上半期に最大76億ドルの損失も予想される不動産大手の債務不履行の可能性などだ。「中国当局の選択肢は限られている......膨らみ続ける債務は国の生産高の282%に達する見込みだ」

グッドマンによれば、中国の苦境は、高い貯蓄率や膨大な預金残高、不動産に対する新たな警戒心、それらの結果として「内需を高める」必要性が強まっていることなど、より根深い問題に起因している。適切な治療法は「景気刺激策」、つまり、消費を増やして投資を減らすことだ。

さらに、ノーベル経済学賞を受賞したエコノミストのポール・クルーグマンはニューヨーク・タイムズに連載しているコラムで、中国は「主に欧米の技術に追い付くことによって」成長してきたが、現在は貯蓄が多すぎ、投資が多すぎ、消費が少なすぎるという問題に直面していると指摘している。「より多くの所得を家庭に回して、持続不可能な投資の代わりに消費を増やす」ために「根本的な改革」が必要になるという。

「悪い人々」に勝つ物語

確かに、中国の家庭は教育や医療、老後のために膨大な貯蓄をしている。しかし、それができるのは収入があるからで、収入の大部分は公共部門および民間投資部門の仕事からもたらされる。

加えて中国から投資プロジェクトがなくなれば、所得は減少し、貯蓄は鈍り、所得に占める消費の割合は必然的に増えるだろう。貯蓄の減少は家計の安全性を弱め、景気の減速をさらに早める。政府が「一帯一路」構想など大規模なプロジェクトを通じて、投資の流れを維持することに苦心しているのも当然である。

【20%オフ】GOHHME 電気毛布 掛け敷き兼用【アマゾン タイムセール】

(※画像をクリックしてアマゾンで詳細を見る)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル軍、ラファ空爆 住民に避難要請の数時間後

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、4月も50超え1年ぶり高水準 

ビジネス

独サービスPMI、4月53.2に上昇 受注好調で6

ワールド

ロシア、軍事演習で戦術核兵器の使用練習へ 西側の挑
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 3

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 6

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 7

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 10

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中