最新記事

自動車

日本電産、日産系の変速機製造ジヤトコに触手 EV化時代にらみ激しい綱引き

2020年10月15日(木)09時50分

精密小型モーターで世界トップシェアを握る日本電産が、さらなる成長の原動力として目を向けているのが自動車だ。写真は日本電産のロゴ。都内で2018年7月撮影(2020年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

精密小型モーターで世界トップシェアを握る日本電産<6594.T>が、さらなる成長の原動力として目を向けているのが自動車だ。電動化の波が押し寄せる中、バッテリーに蓄えた電気を駆動力に変える技術にビジネスチャンスを見いだし、企業を相次いで買収。総仕上げとして、日産自動車<7201.T>が7割以上の株式を持つ変速機メーカー、ジヤトコ(静岡県富士市)の取得に乗り出している。

事情に詳しい複数の関係者によると、日産はその申し出を拒否。しかし、日本電産を売上高1.5兆円規模の企業に育て上げた創業者の永守重信会長は、財務状況が悪化した日産はいずれジヤトコを手放すと踏み、接触を繰り返している。

垂直統合から水平分業へ

トラクションモーター、あるいは「e-Axle(イーアクスル)」と呼ばれるこの技術は、電動化が進む自動車業界の中で競争の最前線になりつつある。年間28億─30億ドルと推定されるトラクションモーターの市場規模は、2030年までに200億─300億ドル規模まで拡大すると予測されている。永守氏は、このうち35%を獲得したいと公言している。

電動化によって自動車はエアコンや洗濯機、パソコンと同じ道をたどると永守会長はみている。「外観は異なるが中を開けたら全部同じ部品」──永守氏は今年1月の記者会見でこう語り、電気自動車の中核技術は汎用化、標準化されていくとの見方を示した。バッテリーと、そこに蓄えた電気を車軸に伝えて車を走行させる技術は、競争力の高い一握りのプレーヤーが供給することになるとにらんでいる。

その1社に食い込むため、76歳の永守氏は日産自動車が7割以上の株式を持つ変速機メーカー、ジヤトコを買収し、日本電産の車載事業と統合することを狙っている。

日産が抵抗するそのやり取りの詳細の一端が、このほどロイターの取材で明らかになった。ジヤトコを巡る日本電産と日産の綱引きは、電動化の流れがどれほど急速に自動車産業を変えつつあるかを浮き彫りにしている。

「日本電産は家電・エレクトロニクス産業のやり方、考え方を自動車に持ち込んでいるようにみえる」と、大和証券のアナリスト、坂牧史郎氏は言う。自動車産業もモデルチェンジの頻度が増え、1社ですべてを作り上げる垂直統合型から、部品や素材を外部調達して組み立てる水平分業型に移行する可能性があると、坂牧氏は指摘。「部品の電気化、電子化がさらに進み、商品サイクルが3年を割り込んでくると(電機業界と)同様の変化が起きてくるかもしれない」と語る。

バッテリーと並ぶ重要技術

トラクションモーターは変速機、モーター、インバーターを組み合わせた電気自動車の駆動装置(パワートレイン)だ。バッテリーに蓄えたエネルギーを制御し、駆動力に変換する「頭脳」とも言える。減速時に発生するエネルギーをバッテリーに戻して蓄電もする。

トラクションモーターの性能が電気の消費効率と自動車の加速性能、走行距離、しなやかな走りを左右する。

電気自動車が価格の引き下げを迫られる中で、トラクションモーターはバッテリーと同様に自動車メーカーがしのぎを削る主戦場になりつつある。バッテリー技術と並び、最も効率化とコスト低減を進める余地がある。

二酸化炭素(CO2)の排出量を削減しようという世界的な取り組みに、技術の進化は欠かせない。米ワシントンにある環境問題のシンクタンク、国際クリーン交通委員会のヤン・ジーフェイ氏によると、自動車から出るCO2の割合は全体の約17%を占めている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日産の今期営業益予想5.5%増、為替変動や生産性改

ワールド

プーチン氏「戦略部隊は常に戦闘準備態勢」、対独戦勝

ワールド

マレーシア中銀、金利据え置き インフレリスクや通貨

ワールド

中国軍艦、カンボジアなど寄港へ 米国は警戒強める可
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 4

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 5

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 6

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 7

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 8

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 9

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 10

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中