最新記事

経営

値下げが中小企業にもたらす5つのリスク(後編)

2015年10月23日(金)06時25分

 最近、有名コンビニエンスストアで「おにぎり100円」セールが乱発されています。もともと利益率が高い商品ではありますが、これほどの繰り返しを見ると、現在の売り上げが苦しく、他に売り上げを上げる方法がないのだろうと想像してしまいます。

 もちろん、日本有数のコンビニエンスストア・チェーンが安易な値下げの怖さを知らないはずがありません。それでもセールを繰り返してしまっていることからも、値下げの魔力がわかるでしょう。

4.「一番大事な顧客」に不満をもたらす

 店や会社にとって、一番良いお客さんは、商品やサービスに満足し、正価で買ってくれるお客さんです。こうしたお客さんは大切にしなければなりません。

 しかし、値下げをすることは、普段、正価で買ってくれるお客さんから得た利益を使って、正価では買わない人を優遇することです。これは良いお客さんをないがしろにしているのと同じです。

 安売りで行列ができたり、品切れが起こると、正価で買ってくれるお客さんが買いにくくなったり、買えなかったりします。また、普段正価で買ってくれるお客さんの立場からすると、突然値下げされていると、普段自分が買っている値段はふっかけられていたのだと思うかもしれません。特に店で販売するわけではない商品・サービスでは、直接お客さんに値段が見えないだけにその傾向が強くなります。

 何も言わないお客さんには正価で売り、値引きを要求されたら安くする。そんなことを知ったら、正価のお客さんは悲しい思いをするに違いありません。

 値下げした値段を見て買うお客さんと、正価で買ってくれるお客さん。どちらの満足を大切にしなくてはならないかは、説明するまでもないでしょう。

5.客層が低化する

「セールで値段を下げたら、急にクレームが増えた」

 あまり値引きをしない店の社長が言っています。

 最初は、セールでお客さんが増えたから十分に接客ができなかったせいなのか、とも思ったそうですが、注意深く見ると、クレームの主は決まって、値引きした時にしか来ないお客さんだったそうです。

 このような言い方は気が進みませんが、現実問題として「安売りは客層を低下させる」というのは、多くが認めることなのです。値下げしたものを求めるお客さんは、商品やサービスに込められた思いを理解しようとしない人が多い。そんなお客さんは、売り手を尊重せず、自分の都合だけを考えるため、クレームが増えるのです。

 このクレームの影響は小さくありません。クレームによってスタッフのやる気が萎えてしまうからです。

 スタッフは誰だって商品やサービスに自信を持って売りたいと思っていますが、値下げによって低化した客層からの理不尽なクレームは、スタッフの自信やプライドを傷つけ、やる気を損なわせてしまいます。つまり、安売りがスタッフの質の低化までもたらしてしまうのです。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米経済の減速必要、インフレ率2%回帰に向け=ボスト

ワールド

中国国家主席、セルビアと「共通の未来」 東欧と関係

ビジネス

ウーバー第1四半期、予想外の純損失 株価9%安

ビジネス

NYタイムズ、1─3月売上高が予想上回る デジタル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中