最新記事

経営

値下げが中小企業にもたらす5つのリスク(後編)

低価格戦略はまるで麻薬、スタッフの質も客層も低下させるのに、手を出すとやめられなくなる

2015年10月23日(金)06時25分

マイナスの影響 値引きが当たり前になると、それ以外の経営努力がなくなり、大事な顧客に不満をもたらすことにもなる(写真は本文と関係ありません) skynesher-iStockphoto.com

 長く続くデフレの中で、値下げ圧力や過当競争により、低価格戦略を余儀なくされてきた店や会社は多いかもしれない。2017年4月には消費税率が10%に引き上げられるが、それで世の中が自動的にインフレに転じるとは限らないし、モノの値段が勝手に上がるわけでもない。

 商品やサービスを売るビジネスの現場では、そう単純な話ではない。「個々の会社や店が意志を持って値段を上げ、それをお客さんに受け入れてもらうことが必要」だと、多くの中小・中堅企業を調査してきた経営コンサルタントの辻井啓作氏は言う。

 辻井氏は著書『小さな会社・お店のための 値上げの技術』(CCCメディアハウス)で、デフレ・インフレに関係なく、経営者も従業員も取引先も顧客も幸せにできる手段として、値上げの必要性を説く。「1割の値上げができれば営業利益は2倍になる」「値段のしくみを知り、条件を整え、勇気を持って値上げせよ」と辻井氏。

 これまで2回、本書から「値上げが中小企業を幸せにする四つの理由」を抜粋したが、それに続き「第2章 値下げの麻薬にはまっていませんか」から「低価格戦略の五つのリスク」の項を抜粋し、前後半に分けて掲載する。

<*下の画像をクリックするとAmazonのサイトに繋がります>


『小さな会社・お店のための 値上げの技術』
 辻井啓作 著
 CCCメディアハウス

※値上げが中小企業を幸せにする4つの理由:前編はこちら
※値上げが中小企業を幸せにする4つの理由:後編はこちら
※値下げが中小企業にもたらす5つのリスク:前編はこちら

◇ ◇ ◇

3.従業員が努力や工夫をしなくなる

 もちろん、特定の商品を一定期間安売りしたところで、お客さんに「安モノの店」と思われることはありません。前章で紹介したように、販売促進のための一時的な値引きや、値引きと同様に費用をかけて行う販売促進は、むしろ店や会社にとって必要なことです。

 良くないのは、値引きすることが続き、当たり前になることです。そして恐ろしいことに、しっかりとした考えを持たずに値引きを始めると、かなり高い確率でこの値引きが当たり前の状態に行き着いてしまうのです。

 先ほども書きましたが、値下げは値札とPOPを書き直すだけなので、簡単です。そしてたちの悪いことに、一時的には売り上げが伸びます。ですから、現場でモノを売っている人は、売上目標を達成するのが難しくなると、ついつい値下げをしてしまいます。一度それをやってしまうと、値下げをして売り上げが伸びたことが忘れられなくなるのです。値下げ以外の手段で売り上げを伸ばすことは本当に難しいので、余計に値下げに走るようになります。

 店で商品を売る商売でなくても、これは同じです。正価で買ってもらうことをお客さんに納得してもらうのは本当に難しい。その時に、お客さんに納得してもらう難しい努力より、簡単な値引きに走ってしまう営業マンは少なくありません。結果、もう少し頑張ればしなくてすむはずの値引きを繰り返すことになります。

 これはたとえ経営者であっても同じです。値下げすることで営業利益が大幅に悪化することがわかっていても、目先の売り上げを作りたい、目先の在庫を売ってしまいたい、目先の現金が欲しいという思いから、ついつい値下げに走ってしまいます。

 そう、値下げはまるで麻薬なのです。軽い気持ちで手を出すと、ずるずるとやめられなくなるものだと知っておいてください。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米金融当局、銀行規制強化案を再考 資本上積み半減も

ワールド

北朝鮮、核抑止態勢向上へ 米の臨界前核実験受け=K

ワールド

イラン大統領と外相搭乗のヘリが山中で不時着、安否不

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 9

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中