最新記事

経営

値下げが中小企業にもたらす5つのリスク(前編)

大切なのは「値上げ」、デフレだからといって低価格に走れば、粗利も商品価値も損ねてしまう

2015年10月22日(木)16時50分

過当競争 値下げで一時的に売り上げは伸びるかもしれないが、ライバル店も対抗して値下げしてくるはず(写真は本文と関係ありません)  skynesher-iStockphoto.com

 長く続くデフレの中で、値下げ圧力や過当競争により、低価格戦略を余儀なくされてきた店や会社は多いかもしれない。2017年4月には消費税率が10%に引き上げられるが、それで世の中が自動的にインフレに転じるとは限らないし、モノの値段が勝手に上がるわけでもない。

 商品やサービスを売るビジネスの現場では、そう単純な話ではない。「個々の会社や店が意志を持って値段を上げ、それをお客さんに受け入れてもらうことが必要」だと、多くの中小・中堅企業を調査してきた経営コンサルタントの辻井啓作氏は言う。

 辻井氏は著書『小さな会社・お店のための 値上げの技術』(CCCメディアハウス)で、デフレ・インフレに関係なく、経営者も従業員も取引先も顧客も幸せにできる手段として、値上げの必要性を説く。「1割の値上げができれば営業利益は2倍になる」「値段のしくみを知り、条件を整え、勇気を持って値上げせよ」と辻井氏。

 これまで2回、本書から「値上げが中小企業を幸せにする四つの理由」を抜粋したが、それに続き「第2章 値下げの麻薬にはまっていませんか」から「低価格戦略の五つのリスク」の項を抜粋し、前後半に分けて掲載する。

<*下の画像をクリックするとAmazonのサイトに繋がります>


『小さな会社・お店のための 値上げの技術』
 辻井啓作 著
 CCCメディアハウス

※値上げが中小企業を幸せにする4つの理由:前編はこちら
※値上げが中小企業を幸せにする4つの理由:後編はこちら

◇ ◇ ◇

 ここで、値下げが常態化してしまうことがいかに恐ろしいか、その五つのリスクについて説明します。

 前章で、値上げにより粗利を確保することがいかに営業利益率を高めるか、そのことによって、店や会社の社長だけでなく、社員とパート・アルバイト、取引先、場合によってはお客さんまでが幸せになることを説明しました。

 値下げをするとその逆の効果が生じるのは、推測できると思います。しかし、実際にはそれだけでなく、一度の値下げが未来にわたって会社を蝕んでいく危険性すらあるのです。

 では順に見ていきましょう。

1.粗利を損ねる

 いうまでもなく、値下げは利益率を損ねます。値上げが劇的に営業利益率を高めるのと逆に、値下げは劇的に利益率を悪化させます。

 もちろん値下げをしても、それによって売り上げが伸びれば、利益率はともかく、利益の額は確保できるので、一時的には業績が良くなったと感じることがあります。

 伸びた売り上げがずっと続けば、それで問題はないのですが、中小規模の店や会社で値下げをした場合、たいていは数日、数週間、長くても数カ月で売り上げが元に戻り、利益率が悪化しただけの結果に終わります。場合によっては、売上数が元に戻り、値下げした分だけ売り上げが落ちたという笑えない話にもなりかねません。

 どうして、こんなことが起こるのでしょうか。それは、ライバル店(ライバル会社)も競って値下げしてくるからです。

 ある商品を値下げして、うまく売り上げが伸びたとすれば、それはライバル店の売り上げを奪ったからです。当然、ライバル店は売り上げを奪われ続けるわけにはいかないので、対抗して値下げをせざるを得ません。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナと欧州、12日から30日の対ロ停戦で合意

ワールド

インドとパキスタン、即時停戦で合意 米が仲介

ワールド

グリーンランドと自由連合協定、米政権が検討

ワールド

パキスタン、国防相が核管理会議の招集否定 インドに
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 3
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノーパンツルックで美脚解放も「普段着」「手抜き」と酷評
  • 4
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 5
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 6
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 7
    指に痛みが...皮膚を破って「異物」が出てきた様子を…
  • 8
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 9
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 10
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 6
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 7
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 8
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 9
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 10
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 8
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中