最新記事

新興国

東南アジアに迫るバブル崩壊説

2013年8月9日(金)15時30分
トレファー・モス(ジャーナリスト)

インフラ投資で逃げ切り

 ただしルピアを防衛できれば、だ。急激な通貨下落はインフレを生み、資産は売られて価格は下落する。投資家は慌てて資金を引き揚げ、それによってまた価格が下がり、損失が雪だるま式に膨らみかねない。

 政治状況も影を落としている。インドネシアのスシロ・バンバン・ユドヨノ大統領の任期は14年に終わるが、外国人投資家は退任後の政情が安定するまで投資を控える可能性がある。

 フィリピンでも、改革の中心人物であるベニグノ3世・アキノ大統領の任期満了が16年に迫っている。だとすれば同じような不安が待ち受けているかもしれない。
メノンによれば同国の経済は好調で、不動産と株式市場のバブルで痛手を負うのは個人投資家に限られる。「フィリピンは東南アジアで何十年も劣等生だったが、やっと光が当たった」と彼は言う。「統治と徴税の飛躍的な向上でようやく胸を張れるようになった。ファンダメンタルズは良好で、さらに改善されている」

 一方、ベトナムの前途は暗い。銀行は過大な負債を抱えて破綻の危機にあるものの、政府には救済する力がない。「ベトナムは長い間、調整局面で苦心している」と、ビスワスは言う。ただ幸運にもベトナムのGDPはASEAN(東南アジア諸国連合)全体の6%。危機に陥っても他国には打撃をもたらすことはない。

 東南アジアには、危機回避は可能と思わせる方策がほかにもある。輸出減少を埋め合わせるための巨額のインフラ投資だ。

 タイとマレーシアは既に交通網の整備に数十億ドルを投じ、インドネシアとフィリピンもこれに続こうとしている。インフラが整えば生産性が飛躍的に向上し、地域の経済成長を常に妨げている障害のいくつかは取り除かれるだろう。

 現在のところASEANの今年の経済成長は、構造的な不安があっても約5%と予想されている。「これらの国々は外需への依存を減らそうとしている。意図的な転換だ」と、メノンは言う。

 中国、ヨーロッパ、日本、アメリカからの将来の需要は未知数なので、過剰な借金をしない限り内需へのシフトは賢い選択肢だろう。

 東南アジアはそうした構造転換がなされるまで、他地域の経済動向にある程度、振り回されるだろう。外部環境に変化がなければ、この地域の調整は緩やかに行われるはずだが、問題は他地域で何が起こるかだ。ユーロ危機再燃などの一大事が起きれば、それが引き金になって深刻な経済悪化に見舞われる可能性は否定できない。

 東南アジア諸国の政府と中央銀行は今後、賢明な金融政策と財政政策で自国経済を立て直そうとするだろう。だが同時に、ヨーロッパと中国の動向も気になって仕方がないはずだ。東南アジアでバブル崩壊があるとすれば、いちばん引き金になりそうなのがその二者だからだ。

[2013年7月16日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、円は日銀の見通し引き下げ受

ビジネス

アップル、1─3月業績は予想上回る iPhoneに

ビジネス

アマゾン第1四半期、クラウド事業の売上高伸びが予想

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中