最新記事

ネット

ペットゲームで経済を読め

SNSで人気爆発中のオンラインゲームで予測する、人間の行動と経済の深い関係

2010年5月13日(木)14時59分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

リアル収益源 2000万人近いアクティブユーザーを獲得したペット育成ゲーム『ペット・ソサエティー』

 ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のフェースブックを使ったことのある人なら、同じフェースブックのサイト上にあるペット育成ゲームや農場経営ゲームに夢中になっている人たちを不思議に思ったことがあるかもしれない。

 少なくとも私はそうだ。時間がもったいないと思うだけではない。ゲームの中の世界では銃や肥料をはじめとしたさまざまな商品が売られているのだが、多くのプレーヤーが本物のカネを出してそうした「商品」を買っていることに納得がいかないのだ。

 だがクリスティアン・セゲルストラレにとって、これは真剣勝負のビジネスだ。彼が経営するプレーフィッシュ社は、冒頭で挙げたオンラインゲームの大手で、バーチャル商品の売り上げでも業界トップクラス。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで経済学の修士号を取ったという彼は、バーチャル商品の世界が経済学研究に新たな道を開いたと語る。「人間の行動や、一定の経済環境下において人がどのようにやりとりするかについて多くを学べる」

 フィンランド出身のセゲルストラレは32歳。携帯電話用ゲームの開発会社を経営していたこともある。07年にフェースブックが、同サイト上で動かすアプリケーションソフトの規格を公開すると発表したとき、セゲルストラレはフェースブックが新たな、そして大きなゲームの市場になるかもしれないと考えた。

 彼は仲間と共にプレーフィッシュを設立。ゲームそのものは無料だが、ゲームで使われるバーチャル商品を売ることで利益を上げるというビジネスモデルを採用した。

市場規模は60億ドルに拡大か

 2000万人近いアクティブユーザーを獲得したペット育成ゲーム『ペット・ソサエティー』などのヒット作のおかげで事業は拡大。昨年11月にはゲームソフト大手のエレクトロニック・アーツに4億ドルで買収されて傘下に入った。

 セゲルストラレによれば、プレーフィッシュがネット上で提供しているゲーム(計12本)では、1日に9000万点ものバーチャル商品が売れているという。「こんなに急成長するとは誰も予想できなかったと思う」と、彼は言う。

 市場調査会社インサイド・ネットワークによれば、アメリカの昨年のバーチャル商品の市場規模は10億ドル強だった。前年比で5億ドルの増加で、今年には16億ドルに達すると見込まれている。ヘルシンキにあるバーチャル経済研究ネットワークによれば、世界的な市場規模は最高で60億ドルほどになるかもしれない。

 経営者としてだけでなく、経済学の専門家としても、セゲルストラレにとってはうれしい話だ。というのも、経済学者が実世界の人間の行動を理論化しようとすると、いつも情報の不完全さという問題にぶつかるからだ。「データは常に限られていて、理解できたと思っても、それを疑う理由は山とある」と、彼は言う。

 一方、バーチャルな世界では「データは完璧にそろっている。SNSではユーザーの身元がはっきりしているから、性別や年齢やあらゆる基準から分析できる」

消費税を5%上乗せしたら

 従来の経済学が扱ってきたのは過去のデータだけ。だが仮想の世界では「リアルタイムでどんな実験もできる」とセゲルストラレは言う。例えば、商品の価格に5%の税金を上乗せしたら需要はどうなる? 

 「税金が上乗せされた際の拒絶反応は、15〜20歳の男性よりも35歳以上の女性のほうが小さいことが分かるかもしれない。こんなこと、実世界では確認できない」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

タイ内閣改造、財務相に前証取会長 外相は辞任

ワールド

中国主席、仏・セルビア・ハンガリー訪問へ 5年ぶり

ビジネス

米エリオット、住友商事に数百億円規模の出資=BBG

ワールド

米上院議員、イスラエルの国際法順守「疑問」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中