最新記事

排出権の売買で青空は取り戻せる

コペンハーゲン会議
への道

CO2削減と経済成長のせめぎあい
ポスト京都議定書の行方は?

2009.07.03

ニューストピックス

排出権の売買で青空は取り戻せる

世界初の温室効果ガス取引所CCXの創設者が温暖化防止に自信満々な理由

2009年7月3日(金)12時31分

バラク・オバマとジョン・マケイン両米大統領候補の一致した主張とは?それは温室効果ガス排出量の削減。新大統領による新政策を先取りして、民間主導のシカゴ気候取引所(CCX)に参加した企業も少なくない。03年に世界で初の排出権取引市場CCXを創設したリチャード・サンダーに、本誌ファリード・ザカリアが聞いた。

----CCXはどのように機能しているのか?

 いわゆるキャップ・アンド・トレード方式で、どの参加企業にも温室効果ガス排出枠(キャップ)が決められている。具体的には00〜10年で6%の排出削減だ。6%を超えて削減した企業は、その分を排出権として売りに出せる。

----各企業に6%の削減を義務づけるほうが簡単では?

 すぐにでも削減できる企業と、そうでない企業がある。できない企業は、できるようになるまで削減枠を超過達成した企業の排出権を買わなければならない。

----CCXの参加企業は?

 IBM、デュポン、ユナイテッド・テクノロジーズ、インテルなどダウ平均株価対象企業の17%。フォード、ハネウェルなど売上高でみた米企業トップ100社の11%。アメリカの主要電力会社も約25%が参加している。シカゴやポートランドなど8都市、タフツ大学(マサチューセッツ州)やカリフォルニア大学サンディエゴ校など8大学も含まれる。

----法的な定めでもないのに、企業が6%削減を急ぐのはなぜ?

 6%以上の削減に自信がある企業は、排出権を売って儲けられるからだ。時代の流れに乗り遅れたくないと思う企業も多い。法的規制が導入される前に準備しておきたいのだ。

----将来、アメリカでキャップ・アンド・トレード方式が義務づけられると思うか?

 もちろん。フォードのように、自社工場を置くイギリスやフランス、日本が(08年から排出権取引を開始するとした)京都議定書を批准しているという理由で、CCXに加わった企業もある。

----アメリカにおける温室効果ガス排出権の価格推移は?

 1トンにつき1ドルからスタートし、価格はしばらくそのあたりにとどまっていた。だが今年の大統領選の予備選段階でヒラリー・クリントン、オバマ、マケインの有力候補がそろって排出権取引の制度に賛成したものだから、一気に1トン当たり1・9ドルから7ドルにはね上がった。

----キャップ・アンド・トレードは汚職につながりやすいと批判するエコノミストもいる。

 彼らは現実を理解していない。

----というと?

 この方式が初めて大規模に実施されたのは、大気浄化法が規制強化された90年だ。10年間で大気中の二酸化硫黄を半減させることが義務づけられた。かつて排出削減には年間何百億ドルもかかると考えられたが、環境保護庁によると(この方式のおかげで)現在のコストは年間10億〜30億ドルという。

 医療費も、肺疾患が減るおかげで年間1200億ドルのコスト減が期待できる。こんなに効率的な方式はほかにないだろう。

----温室効果ガスの増加には中国とインドの関与も大きい。彼らは取引に参加するだろうか。

 (CCXには)中国の五つの企業が入っているし、私たちはインドの貧しいケララ州で、リサイクルによってバイオガスを精製するプロジェクトを行っている。

----しかし中国やインドの政府にこの方式を導入させられるか?

 順序が逆だ。まず民間企業が先を走り、その後で政府が認める。現に私たちは、インドで排出権取引をスタートさせようとしている。国有の中国石油天然気(ペトロチャイナ)とも覚書を交わした。私は、世間で言うほど中国やインドが遅れているとも、ヨーロッパが進んでいるとも思わない。

----企業が正直に削減努力をすると信じていいのか?

 これまでのところ問題は起きていない。監視する技術があるからだ。もちろん、絶対に不正な取引やルール違反がないとはいえない。しかし私たちのシステムが効率的で、かつ資本調達を可能にしていることは事実だ。

 誤った方向にいく危険ばかり口にする人たちこそ、この200年間資本市場で私たちが試行錯誤をしながら学んできたという事実から目を背けているのではないか。

 EU(欧州連合)はもともと、鉄鋼や石炭の安定調達を確保するために生まれた。キャップ・アンド・トレード方式も、いずれ地球温暖化を解決する手本になる。20年もたてば、そうなっている。

[2008年10月 1日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 6

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中