コラム

ウクライナ侵攻に対する米世論とバイデンの大統領演説

2022年03月03日(木)16時40分

バイデンはウクライナを支援する立場を示しつつも、米軍派兵は行わないと明言した Saul Loeb/Pool/REUTERS

<ロシアの侵攻をめぐるアメリカの世論は左右、上下の軸で分かれている>

ロシアによるウクライナ侵攻のニュースは、連日アメリカのメディアで最大限の扱いが続いています。CNNなどニュース専門局だけでなく、3大ネットワークも「メインキャスター」クラスが西部リビウを拠点にレポートする一方で、戦争報道のノウハウを持った記者は、首都キエフから緊迫したレポートを送る態勢が取られています。

例えばですが、CNNのエリン・バーネット(その後、21時間かけて越境して帰国)、アンダーソン・クーパー、私が著書を翻訳して紹介しているNBCのリチャード・エンゲルなど、アメリカのテレビジャーナリズムにおけるビッグネームたちが、ウクライナから直接レポートしているわけで、これは説得力があります。

こうしたことに加えて、民兵自身、避難民自身が英語で語るコメントがどんどん流れることが、ダイレクトにアメリカの世論を動かしています。地下室で必死になって火炎瓶を作る女性たち、国境まで妻子を車で送って、そこで首都防衛のために戻る夫との涙の別れのシーンなども、子供を含めた当事者が泣きながら話す英語のコメントがつくことで、アメリカの視聴者は半端でない感情移入をさせられているのです。

では、ウクライナ情勢をめぐるアメリカの世論はどうなっているのかというと、これは決して一枚岩ではありません。上下、左右という2つの軸によって違いがあるからです。

中道派はウクライナ支持

まず左右の軸ですが、真ん中にある「オバマ、ヒラリー、バイデンの民主党」や「ブッシュ、マケインの共和党」を支持する人々は、ウクライナに強く同情し、ロシアを敵視するという感覚を明確にしています。

一方で、右のグループ、特に共和党内のトランプ派と言われる人々は、「トランプが大統領なら今回の戦争は起きなかった」と今でも信じており、戦争の対立構図に対して冷ややかです。確かにトランプはNATOの結束を崩しにかかり、またシリアではアサド体制の温存を含めてプーチンの専横を認めたのですから、プーチンによる西側への警戒心は減っていたと考えられます。

現時点で考えると、プーチンの世界戦略に利用されていたとしか思えませんが、トランプ派は今でも「アメリカは関わりたくない」ので「あれで良かった」という見解を捨てていません。ただ、トランプ派というのは理屈よりも情念を求心力にしていますから、この見解に加えてアフガン撤兵の失敗を例に出して「バイデンのような弱いリーダーでダメだ」という非難も混ぜているのです。

では、サンダース、オカシオコルテスといった民主党左派の立場はどうかというと、左派的な反戦の姿勢をここでも徹底しようとしており、「戦争に追い込んだバイデン外交には疑問」という姿勢を取っています。つまり、左右の軸ということでは、一番左と一番右がそれぞれのイデオロギーから「反戦」あるいは「非介入」という立場であり、真ん中の多数派については民主党も共和党もウクライナ支持で固まっているという構図です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:アルゼンチン止まらぬ物価高、隣国の町もゴ

ビジネス

アングル:肥満症薬に熱視線、30年代初頭までに世界

ワールド

イスラエル、新休戦案を提示 米大統領が発表 ハマス

ビジネス

米国株式市場=ダウ急反発、574ドル高 インフレ指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    ロシアT-90戦車を大破させたウクライナ軍ドローン「精密」特攻...戦車の「弱点」を正確に撃破

  • 3

    ヘンリー王子とメーガン妃の「ナイジェリア旅行」...痛すぎる教訓とは?

  • 4

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 5

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 6

    米女性の「日焼け」の形に、米ネットユーザーが大騒…

  • 7

    ウクライナ「水上ドローン」が、ロシア黒海艦隊の「…

  • 8

    1日のうち「立つ」と「座る」どっちが多いと健康的?…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    「同性婚を認めると結婚制度が壊れる」は嘘、なんと…

  • 1

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 2

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 3

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲームチェンジャーに?

  • 4

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 5

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 6

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 7

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 8

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    カミラ王妃が「メーガン妃の結婚」について語ったこ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story