最新記事

無差別兵器

ロシアの「燃料気化爆弾」は人間の肺の酸素も吸い上げる

‘It Is Horrendous’: Russia Prepares Vacuum Bombs to Blitz Ukraine

2022年3月2日(水)18時04分
ジャック・デッチ

ロシア軍はすでに気化爆弾を使ったという人権団体もある CRUX./YouTube

<ロシア軍が準備中とされる気化爆弾は、民間人も巻き込む無差別兵器で、恐怖でウクライナ人の意気を阻喪させようとするものだ>

ウクライナ軍と民間人を震え上がらせるため、ロシアが気化爆弾(サーモバリック爆弾)を使用する可能性が高まっている。すでに使用されたとする人権団体もある。

ロシアが、無差別殺傷兵器である燃料気化爆弾(以下、気化爆弾)を搭載したロケットをウクライナの目標に投下できる発射装置を配備したと、アメリカ国防総省の幹部は3月1日、報道陣に述べた。ウクライナに対する軍事作戦がロシア軍の補給の遅れなどで難航していることから、ロシア政府がより殺傷能力の高い武器の使用に向けた準備を進めてウクライナ国民を恐怖で震え上がらせようという意図とも考えられる。

匿名を条件に取材に応じたある国防総省幹部は、ロシアが気化爆弾の発射装置を設置した場所については明かさなかった。3月1日の時点では、国防総省はロシアが気化爆弾を配備、あるいは実際に使用したことを確認していないと述べた。しかし、ウクライナ政府や現地の観測筋はさらに踏み込んだ見解を示している。駐米ウクライナ大使や複数の人権団体は2月28日の時点で、ロシアがすでに気化爆弾を使用したと指摘していた。

恐るべき兵器

「バキュームボム(真空爆弾)」の名でも知られる気化爆弾は、周囲の空間から酸素を奪い、高温反応を引き起こす兵器であり、通常の爆弾と比べて爆風を引き起こす時間が長い。ロシアがこの兵器を配備した背景には、ウクライナ軍と民間人の抵抗勢力を恐怖に陥れる狙いがあると、複数の専門家はフォーリン・ポリシー誌に指摘した。ロシア軍は、補給の問題から、ハリコフやキエフといったウクライナ主要都市への進軍が計画通りに進んでいない。気化爆弾の使用は、状況を打開する方策の一環と考えられる。

「これらの爆弾は、衝撃とまともに食らう周囲の人間を殺傷するだけにとどまらない」。かつて国防総省の副次官補や中央情報局(CIA)の役職を歴任したミック・マルロイは指摘する。「周囲の空気や周囲にいる人間の肺からも酸素を吸い上げてしまう。恐るべき兵器だ」

ロシア国防省は3月1日、ウクライナの首都キエフに対して、高精度の空爆をすぐさま実施すると警告していた。だが、ロシア軍は短距離弾道ミサイルの代わりに多連装ロケットランチャー「TOS-1」をはじめとする気化爆弾の発射装置を配備しはじめた。これは、ロシア軍が精密誘導兵器を急速に使い果たしつつあり、精密度の劣る無差別殺傷兵器で主要都市を包囲する作戦に転換したのではないかと、専門家は警戒する。ロシア軍は、1990年代〜2000年代初頭のチェチェン紛争でも気化爆弾を用いたと報じられており、厳しい非難を受けた。また、シリアの首都ダマスカスの郊外地域グータを反体制勢力から奪還するための作戦でも用いられたとされる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、核実験再開の提案起草を指示 トランプ氏

ビジネス

米ADP民間雇用、10月は4.2万人増 大幅に回復

ワールド

UPS貨物機墜落事故、死者9人に 空港は一部除き再

ワールド

トランプ氏、選挙での共和党不振「政府閉鎖が一因」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面に ロシア軍が8倍の主力部隊を投入
  • 4
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 5
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇…
  • 6
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 7
    若いホホジロザメを捕食する「シャークハンター」シ…
  • 8
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    中国の大豆ボイコットでトランプ関税大幅に譲歩、戦…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中