最新記事

無差別兵器

ロシアの「燃料気化爆弾」は人間の肺の酸素も吸い上げる

‘It Is Horrendous’: Russia Prepares Vacuum Bombs to Blitz Ukraine

2022年3月2日(水)18時04分
ジャック・デッチ

ロシア軍の作戦の要諦は、激しい砲撃と比較的長距離の火器攻撃で地上部隊を援護し、敵の士気をそぐことにある。「主要都市の近郊では多連装ロケットランチャーが配備されていることは確認済みだ」と、アメリカのシンクタンク、ランド研究所の主任政策研究員でロシア軍事力の分析を手がけるダラ・マシコットは2月25日の時点で本誌に語っていた。米国防総省の推計によると、侵攻を始めてからの6日間で、ロシアは400発以上のミサイルをウクライナに向けて発射している。その大半は、短距離弾道ミサイルだという。

ただし、米国政府の複数の高官は、現時点で兵士の士気に問題を抱えているのは、ウクライナ軍ではなくロシア軍部隊だという。3月1日に報道陣の取材に応じた国防総省幹部は、ウクライナ国境に沿って配置された15万人以上のロシア軍兵士(今回の侵攻作戦に動員された兵士の80%以上を占める)のうち「かなりの数」は、徴兵で軍隊に入った若い兵士だと指摘した。

「その多くは、自身が実戦に出されることさえ知らされていなかった」と、この国防総省幹部は述べ、一部のロシア軍部隊は、戦うことなく降伏したと付け加えた。3月1日に出回った、戦場で撮影されたとされる写真には、ウクライナ軍が気化爆弾の発射装置を接収したことを示唆するものがある。だが本誌独自の調査では、この写真の真偽を確認することはできなかった。

ロシアは失敗から学ぶ

加えて、ロシア軍部隊は行軍に際して、ありとあらゆる種類の補給に関する問題に直面している。衛星画像では、ロシアの戦車、迫撃砲、補給物資を積んだ車からなる車列が数十キロにわたって連なっているものの、ほぼ前進ができない状況がとらえられている。「ガス欠になっているだけでなく、食料も尽きかけている」と、前述の国防総省幹部は述べた。ある専門家は3月1日に投稿したツイートで、ロシアの補給および通信体制は「めちゃくちゃな状態だ」と酷評した。

しかしバイデン政権は、ロシアが序盤の作戦の失敗から学ぶだろうと考えている。1990年代と2000年代に、ロシアはチェチェン共和国の首都グロズヌイの攻略に向け、2度の軍事作戦を敢行した。1度目は、地元勢力からの予想外の抵抗に遭い、大半が徴集兵で構成されたロシア軍は退却を余儀なくされた。しかし2度目の作戦では、新たな軍事戦略と、より訓練を積んだ部隊を準備したことで、グロズヌイの陥落に成功したと、ジョン・スペンサーは指摘する。スペンサーは元アメリカ陸軍少佐で、退役後は、米陸軍士官学校の現代戦研究所で市街戦研究の責任者を務めている。

これはいいニュースではない。「民間人を標的とした戦術がさらに多用されると、我々は予想している」と、元国防総省幹部のマルロイも、今後の展開について述べている。

ジャック・デッチは、フォーリンポリシー誌で国防総省および国家安全保障を担当する記者。
(翻訳:ガリレオ)

From Foreign Policy Magazine

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

欧州のドローン混乱、メドベージェフ氏がロシアの関与

ワールド

ルコルニュ仏首相が辞任、組閣直後 ユーロ急落

ワールド

ロシアのメドベージェフ前大統領、訪朝へ=KCNA

ビジネス

金相場、初めて3900ドル突破 安全資産需要で一段
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 2
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿すると「腎臓の検査を」のコメントが、一体なぜ?
  • 3
    更年期を快適に──筋トレで得られる心と体の4大効果
  • 4
    筋肉が育つだけでは動けない...「爆発力」を支える「…
  • 5
    一体なぜ? 大谷翔平は台湾ファンに「高校生」と呼ば…
  • 6
    「美しい」けど「気まずい」...ウィリアム皇太子夫妻…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃の「オーラの違い」が話題…
  • 8
    イエスとはいったい何者だったのか?...人類史を二分…
  • 9
    一番お金のかかる「趣味」とは? この習慣を持ったら…
  • 10
    逆転勝利で高市早苗を「初の女性宰相」へと導いたキ…
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 7
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿す…
  • 8
    更年期を快適に──筋トレで得られる心と体の4大効果
  • 9
    MITの地球化学者の研究により「地球初の動物」が判明…
  • 10
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中