コラム

2020年、自由と民主主義は敗北したのか?

2020年12月24日(木)15時30分

強制措置によっていち早くコロナ禍から抜け出した中国だが…… Thomas Peter-REUTERS

<社会統制でパンデミックを乗り切り国際的に優位に立つ中国だが、その進路には落とし穴もある>

2021年1月にアメリカの第46代大統領に就任するジョー・バイデン氏は「自由と民主主義の同盟を再構築する」というスローガンを掲げています。ですが、その実現は簡単ではありません。というのは、自身が副大統領であったオバマ時代と比較すると、世界情勢が大きく変化したからです。

例えば、多くの国でデマゴーグに近いポピュリスト政権が誕生して社会に混乱を引き起こしています。また日本の場合には、統治能力を持った政権の選択肢がワンセットしかないことで、事実上、社会変革が停滞して国力が後退しています。そんな中で、民主政治は決して理想ではないという言い方が、説得力を持ってしまっているのは事実だと思います。

2020年について言えば、特にコロナ禍は、統制社会の利点を見せつけた形となりました。中国は、GPSを使ったアプリなどを駆使して、プライバシー権や移動の自由を完全に制限しました。その結果、パンデミックをほぼ湖北省だけに限定し、早期の封じ込めに成功、中国全国としては経済活動もフル稼働ができています。ですから生産拠点としても、消費市場としてもコロナ後の世界経済を牽引する重要なプレーヤーとなっているのです。

環境政策もそうです。中国は、既に2030年には化石燃料車の販売禁止に踏み切るとしています。これに伴って、EV(電気自動車)のビジネスを加速させており、EV化やAV(自動運転車)化を契機として、世界の自動車産業における圧倒的なシェアの獲得も狙っていると言われています。

抗体の「空白地帯」

また、中国は原発シフトも進めています。緊急時には外部電源なしで冷温停止の可能な「第3世代+(プラス)」の軽水炉をいち早く輸入して稼働させているだけでなく、自国での製造技術もすでに「第3世代」を実用化しています。さらにはもっと新しい技術を使った実験炉もさまざまに展開しています。2011年の福島の原発事故を受けて、一旦は開発を中止した中国ですが、ここへ来て一気にスピードアップできている背景には、世論を統制できる体制という点が大きいと思われます。

そう考えると、効率的な統制社会に対して、非効率であるばかりか誤った判断をし続ける民主社会は対抗できそうもない、そんな主張が出てくるのも分からないではありません。ですが、現実はそう簡単ではないと思います。

まず新型コロナのパンデミックですが、早期収束を実現した反面、中国は14億人が抗体のない状態となっています。これは、地球上でもっとも大きな「空白地帯」であり、当面は鎖国を続けるしかありません。頼みの綱はワクチンですが、自国開発にしても輸入にしても2021年前半の時点ではワクチンを「強制的に接種する」ことは、いくら中国でも不可能と考えられます。

副反応や効能について、情報公開を誠実に行なって人々の信頼を獲得しなくては、接種率は上がらないでしょう。統制社会だから、トップダウンで実施すればいいなどという甘い考えでは、静かに成熟へ向かっている中国の世論は納得しないと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:アルゼンチン止まらぬ物価高、隣国の町もゴ

ビジネス

アングル:肥満症薬に熱視線、30年代初頭までに世界

ワールド

イスラエル、新休戦案を提示 米大統領が発表 ハマス

ビジネス

米国株式市場=ダウ急反発、574ドル高 インフレ指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    ウクライナ「水上ドローン」が、ロシア黒海艦隊の「極超音速ミサイル搭載艇」を撃沈...当局が動画を公開

  • 3

    ヘンリー王子とメーガン妃の「ナイジェリア旅行」...痛すぎる教訓とは?

  • 4

    ロシアT-90戦車を大破させたウクライナ軍ドローン「…

  • 5

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 6

    1日のうち「立つ」と「座る」どっちが多いと健康的?…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    米女性の「日焼け」の形に、米ネットユーザーが大騒…

  • 1

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 2

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 5

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 6

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 7

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 8

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 9

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story