コラム

銃規制「冬の時代」に実施される、ニュージャージーの銃買い取りイベント

2017年06月29日(木)16時00分

先月、共和党下院議員が銃撃される事件が起きたが、銃規制運動はまったく盛り上がらなかった Rick Wilking-REUTERS

<共和党クリスティー知事の任期満了が近づく中、元々銃規制が厳しいニュージャージー州で大規模な銃買い取りイベントが実施されることに>

オバマ政権時代には、銃による深刻な殺傷事件が頻発したことで、銃規制を主張する運動が盛り上がったのですが、当然ながらNRA(全米ライフル協会)の影響下にある共和党から強い反対に遭っていました。それでも、オバマ政権は精神病歴のある人物への銃の販売規制などを実施しました。

ところが今年トランプ政権が発足すると、共和党が多数を占める議会はこの「オバマの銃規制」を2月早々に葬り去るなど、現在のアメリカは「銃規制派」にとって「冬の時代」になっています。

6月14日にワシントンDC郊外で発生した共和党下院議員らへの銃撃事件の際には、同じように銃撃被害に遭った当時の民主党下院議員ガブリエル・ギフォーズ氏が「これは自分のケースと同じで、銃の問題である」として、事件を契機として銃規制運動を呼びかけましたがまったく話題にされませんでした。

またこの6月には、ここ数年大きな問題になっていた「警官による黒人への銃撃事件」に関して、全米3カ所で「警官の無罪」という評決が下されています。これも「トランプ政権下のアメリカ」を象徴する動きと言えます。

【参考記事】銃撃事件に遭った米共和党議員「銃のおかげで助かった」

そんな中、全米で最も厳しい銃規制を敷いているニュージャージー州で、7月下旬に大規模な「銃の買い取りイベント」が実施されることになりました。これは、警察と地方自治体が共同で行うもので「社会に出回る銃を減らす」ために行われます。

同様のイベントは、1970年代から90年代にはメリーランド州やワシントン州で実施されたことがあり、また2000年代に入って西海岸のカリフォルニア州、中部のミシガン州、東部のマサチューセッツ州などでも実施されたことがありますが、テスト的な実施がほとんどでした。

一方でニュージャージーの場合は、2012年に制度として「銃の買い取り」を法制化して以来、断続的に実施してきていて、これまでに約1万9000丁を回収した実績があります。現在は州法として「1年に9回、大規模な買い取りイベントを実施するよう義務付ける」案が審議中です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

鈴木財務相「財政圧迫する可能性」、市場動向注視と日

ワールド

UCLAの親パレスチナ派襲撃事件で初の逮捕者、18

ワールド

パプアニューギニアで大規模な地すべり、300人以上

ワールド

米、ウクライナに2.75億ドル追加軍事支援 「ハイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 2

    批判浴びる「女子バスケ界の新星」を激励...ケイトリン・クラークを自身と重ねるレブロン「自分もその道を歩いた」

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 5

    なぜ? 大胆なマタニティルックを次々披露するヘイリ…

  • 6

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 7

    これ以上の「動員」は無理か...プーチン大統領、「現…

  • 8

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 9

    アウディーイウカ近郊の「地雷原」に突っ込んだロシ…

  • 10

    台湾の電車内で、男が「ナイフを振り回す」衝撃映像.…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 6

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 7

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 8

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story