コラム

「デジタルデフレ」こそ、世界経済が直面するリスク

2016年06月02日(木)16時40分

Bet_Noire-iStock.

<G7で世界経済のリスクを強調した安倍首相。日本経済がマイナス圧力にされされていることは間違いないが、その要因はテクノロジーの進化などによって産業が縮小するグローバルなデフレだ>

 安倍内閣は、2017年4月に予定されていた消費税の増税を延期すると発表しました。一部に反対論もあるようですが、昨年4月に実施された消費税率引き上げ(5%から8%へ)の後の状況を勘案すると妥当という考え方もあるでしょう。

 この昨年4月の前年2013年を振り返ると、2012年12月末に第2次安倍政権が発足すると共に、いわゆるアベノミクスが開始され、円安と株高へと振れた年でした。この2013年の第1四半期GDPの伸び率は4.4%(実質)を記録しています。その勢いがあっても、昨年4月の税率アップの反動は壊滅的だったのです。

 今回仮に2017年4月に増税するとして、その一年前の第1四半期GDP伸び率は「予想より良かった」と言いながら、1.7%という数字だったわけです。また、景況感ということでは、円安+株高の効果が出ていた2013年と比べると、現状で勢いはありません。

 そのような中で、強引に税率の引き上げを実施して、昨年以上の消費の冷え込みが起きるようですと、短期的・中期的には「かえって税収が減った。財政再建にもマイナスだった」ということになりかねません。

【参考記事】消費税再延期も財政出動も意味なし? サミットでハシゴを外された日本

 では、安倍首相の発言の中にあったとか、なかったとか言われている「リーマン・ショック直前の状況」というのは、どうでしょうか? 2008年夏のような爆発寸前の危機という意味では、世界経済の現況を考えると「オーバーな表現」かもしれません。

 ですが、世界経済の全体に悲観的な現状認識を立てるのは間違っていないと思います。しかも、一過性の金融バブルと違って、現在進行している危機はもっと本質的なものです。

 それは、2つの要素から成り立っています。

 まず、デジタルデフレとでも言うべき現象があります。テクノロジーの広範な利用により、多くの知的なサービスが無料化されたり、人間の雇用が消滅したりする現象です。

 例えば、スマホの普及により、電話機、コンピュータ、FAXマシン、書籍、雑誌(に伴う印刷・製本業など)、音響機器、カメラ機材、郵便事業、販売店といったモノや産業が衰退もしくは消滅しているのがいい例です。

 また、自動運転車のシェアリングによって、サービス業の運輸業と製造業の自動車産業の双方が同時に縮小に向かう可能性があるなど、デジタル化が広範な経済活動を縮小し、雇用機会を減少させているトレンドは明らかに存在します。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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