コラム

リトルリーグに現れた「少女エース」の快投

2014年08月19日(火)10時34分

 例えば、ウィリアムズポートでの最終トーナメント進出をかけた、大西洋岸中部代表決定の決勝戦(8月10日)では、デラウェア州チームを8対0で完封(リトルのため6回で終了)、更に最終トーナメントの初戦であり、ウィリアムズポートでのデビューとなった8月15日のデラウェア戦でも6回を完封してチームに4対0の勝利をもたらしています。

 このデラウェア戦では、8つの三振を奪って安打は内野安打2本だけ。しかも最終回の6回は三者三振という圧倒的な投球内容でした。しかも投球数は44球という少なさです。最高の球速は71マイル(114キロ)で、これは本塁までの距離の短いリトルですので、仮に大人の野球に換算すると114マイル(180キロ)という猛烈な球速です。

 そんなわけで、先週から今週にかけて、アメリカの野球界ではモナ・デイビス旋風が吹き荒れることになりました。多くの芸能人や著名人がデイビス投手の「ファンである」と宣言を始めたばかりか、現役のメジャーの選手(例えば打撃のスーパースターである、エンゼルスのマイク・トラウト選手)も、彼女に対して「是非一緒にプレーしたい」と熱烈な言葉を寄せています。

 では、このデイビス投手の魅力は何かというと、勿論、右投げ本格派の豪球投手だということもありますが、球数制限などのためにマウンドに立たない時は、遊撃や一塁を守って、打ってよし、守ってよしの素晴らしい選手だということが言えます。何でも、アメリカン・フットボールやサッカーもプレーしているようで、今後のアスリートとしての成長が実に楽しみな逸材だと思います。

 これに加えて、デイビス投手の魅力は「目」にあると思います。茶色の大きな真ん丸の澄み切った目は、日本で言う「目力」などというレベルを越えています。その視線は、決して攻撃的ではなく、かといって柔和でもなく、ただひたすらに透明なのです。そして真っ直ぐに相手に突き刺さる強さを持っています。

 グラウンドでの立ち居振る舞いも見事で、三塁に滑り込んで間一髪アウトになっても、平然と立ち上がって自分が蹴っ飛ばしてしまったベースを直して、淡々とベンチへ引き上げてくるのです。そして監督から指導を受ける際には、相手の目を真っ直ぐに見ながら、実に落ち着いています。マウンドでも、打席でも「肝の座った」と言いますか、落ち着き払ったオーラを放っていて、相手の少年たちはその時点で精神的に負けているという感じでした。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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