コラム

安倍さんもできた! 撤回、謝罪、万歳!

2018年02月16日(金)16時15分

間違ったら撤回して謝罪する安倍首相は……素晴らしい! Kim Kyung Hoon-REUTERS

<裁量労働制に関する答弁の誤りを認めた安倍首相。トランプ米大統領も「誤ったら謝る姿勢」を見習ってほしい>

たまには安倍さんを褒めよう。

「裁量労働制で働く人の労働時間の長さは、平均的な方で比べれば一般労働者よりも短いというデータもある」。安倍晋三首相は1月29日の衆院予算委員会で、こう主張した。しかし、このデータは算出方法が異なる2つの調査に基づいているため、数字の比較はできないはずだ。首相はその指摘を受け、2月14日の予算委員会で先日の答弁を撤回し、謝罪した。
 
素晴らしい!

次は不適切なデータを最初から使わないことを目指そう!

と、ひねくれたことを言いたくなるが、我慢する。人間は不完全なもの。間違えない人はいない。間違ったときに素直に認めて詫びるのが大人のやり方。というか、幼稚園児でもそうするように教えられているよね。

しかし、それができない政治家が世の中に多い。そしてわが国には、そんな政治家しかいないように見える。代表的存在は、やはりあの人。最高の地位を持つ、幼稚園児以下のあの人。

大統領になる前のドナルド・トランプは、2015年のテレビ番組でこう語っている。「謝るのはとても素晴らしいことだと思う。でも、まずは間違えないとね。僕もいつか、遠い将来だろうけど、謝ることがあるかもしれない。もし間違えることなんかがあれば......」。誤らない前提で、謝らない姿勢を見せた。

しかし......。温暖化は中国の陰謀だ、バラク・オバマはケニア出身だ、アメリカのGDPはマイナス領域に入ったなどなど、昔から間違いを大声で繰り返してきたトランプだ。15年に大統領に立候補してからその傾向がさらに目立つようになった。殺人事件で犠牲になった白人の81%は黒人に殺されている、アメリカの失業率は42%だ、大統領選予備選のライバル候補テッド・クルーズの父はジョン・F・ケネディ暗殺犯の仲間だったなどなど、どれも真っ赤な......間違い。だが、撤回も謝罪もない。誤りっぱなしで、謝りなしだ。

僕が知っている限り、唯一トランプが謝罪したのは、05年のテレビ収録現場で性的暴行を自慢した件。16年の大統領選直前にその録音テープが発覚したときだけ、「お詫びします」と言った。しかし後になって、「あれは俺の声じゃない」とテープを疑問視する話もしている。謝ったことが誤りだったとでも思っているようだ。

大統領になってからも、「就任式の観衆は史上最高の人数だった」を皮切りに、間違いのオンパレードだ。数百万もの不正投票があった、オバマ政権時に俺は盗聴されていた、極氷冠の面積が増えている......もちろん、どれも真実にそぐわない発言だが、そう指摘されても取り消しなどしない。ケリーアン・コンウェイ大統領顧問が「オルタナティブ・ファクト(もう一つの事実)だ」と弁解したことから分かるように、事実は一つじゃない。間違いを撤回し、謝罪するどころか、間違いだという認識さえないことになる。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮が短距離ミサイルを発射、日本のEEZ内への飛

ビジネス

株式・債券ファンド、いずれも約120億ドル流入=B

ワールド

中国、総合的な不動産対策発表 地方政府が住宅購入

ビジネス

アングル:米ダウ一時4万ドル台、3万ドルから3年半
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story