コラム

スノーデンが告発に踏み切る姿を記録した間違いなく貴重な映像

2016年06月10日(金)16時05分

映画『シチズンフォー スノーデンの暴露』 (C)Praxis Films (C)Laura Poitras

<元CIA職員エドワード・スノーデンが、NSA(国家安全保障局)による大量監視の実態を暴露し、世界を震撼させた。この内部告発に踏み切る姿をリアルタイムで記録した貴重な映像が映画になった>

機密文書を入手したスノーデンは、米国法が及ばない香港に移動した

 元CIA職員エドワード・スノーデンが、NSA(国家安全保障局)による大量監視の実態を暴露し、世界を震撼させたのは、2013年6月のことだった。アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞に輝いたローラ・ポイトラス監督の『シチズンフォー スノーデンの暴露』には、この29歳の若者が内部告発に踏み切る姿がリアルタイムで記録されている。それは間違いなく貴重な映像だが、この映画を観る前にジャーナリストのグレン・グリーンウォルドが書いた『暴露――スノーデンが私に託したファイル』を読んでおくと、その衝撃や意味がより深いものになる。

 NSAの機密文書を入手したスノーデンは、米国法が及ばない香港に移動し、滞在するホテルに以前から接触していたポイトラスとグリーンウォルドを呼び寄せ、彼らに大量の文書を託す。ポイトラスは彼に会うとすぐに撮影を始める。グリーンウォルドはその文書を基に、NSAが大手通信会社ベライゾンの加入者数千万人分の通信履歴を収集していること、極秘PRISMプログラムによってグーグル、アップル、フェイスブックなどの企業のサーバーに直接アクセスしていることなどを暴くスクープ記事をガーディアン紙に発表する。そして大きな反響が巻き起こったところで、スノーデンが内部告発者として自身の正体を明かし、香港を脱出する。

 その後、ポイトラスとグリーンウォルドは、それぞれに事件に関係する記録映像を追加し、あるいは機密文書の内容を盛り込むなどして、『シチズンフォー』と『暴露』にまとめた。彼らの映画と本は相互に補完しあい、結びつけることで事件がより鮮明になる。

"4番目の市民"となるスノーデンが選んだ告発の手段

 スノーデンはなぜ海外に逃れ、入手した情報をジャーナリストと共有する方法を選択したのか。そのヒントは、スノーデンがポイトラスと連絡をとるときに使ったハンドルネームで、映画のタイトルにもなっている"シチズンフォー"にある。NSAで内部告発に踏み切ったのは、スノーデンが最初ではない。これまでに、映画にも登場するウィリアム・ビニー、J・カーク・ウィービー、トーマス・ドレイクという3人が懸念の声をあげたが、彼らは組織の内部で改善を求めようとしたため、その告発は妨害、脅迫、告訴などによって黙殺された。"4番目の市民"となるスノーデンは、それを踏まえまったく異なる方法を選択した。

 ではなぜグリーンウォルドとポイトラスだったのか。法律家だったグリーンウォルドは、ブッシュ政権下でNSAが令状をとることなく国民の電子通信を傍受していたことを知り、ジャーナリストとしてこの盗聴スキャンダルを様々な角度から追究するようになった。だからスノーデンは彼を選んだ。

プロフィール

大場正明

評論家。
1957年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒。「CDジャーナル」、「宝島」、「キネマ旬報」などに寄稿。「週刊朝日」の映画星取表を担当中。著書・編著書は『サバービアの憂鬱——アメリカン・ファミリーの光と影』(東京書籍)、『CineLesson15 アメリカ映画主義』(フィルムアート社)、『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)など。趣味は登山、温泉・霊場巡り、写真。
ホームページ/ブログは、“crisscross”“楽土慢遊”“Into the Wild 2.0”

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国1月製造業PMIが50割れ、非製造業は22年1

ワールド

米政府機関の一部が短期間閉鎖へ、予算案の下院採決持

ワールド

トランプ氏、労働統計局長にベテランエコノミスト指名

ワールド

焦点:トランプ政権、気候変動の「人為的要因」削除 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 2
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵士供給に悩むロシアが行う「外道行為」の実態
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    日本はすでに世界第4位の移民受け入れ国...実は開放…
  • 5
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパ…
  • 6
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 7
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 8
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 9
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 10
    「外国人価格」で日本社会が失うもの──インバウンド…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story