コラム

今回の『スティーブ・ジョブズ』は、伝説の3つのプレゼン直前の舞台裏を描く

2016年01月22日(金)16時50分

スティーブ・ジョブズが行った3つの新作発表会のプレゼン――1984年のMacintosh、1988年のNeXT Cube、1998年のiMac、の直前40分の舞台裏が描かれる。 (c)Universal Pictures

 2013年に公開されたジョシュア・マイケル・スターン監督の『スティーブ・ジョブズ』は、ジョブズにそっくりな主人公がジョブズの足跡をなぞるオーソドックスな伝記映画だった。しかし、新たに公開されるもう一本の『スティーブ・ジョブズ』はまったく違う。物語の土台になっているのは、ウォルター・アイザックソンのベストセラー『スティーブ・ジョブズ』だが、ダニー・ボイル監督と『ソーシャル・ネットワーク』でアカデミー賞を獲得した脚本家アーロン・ソーキンは、そのダイジェストを作るようなことはしなかった。

 カーマイン・ガロがジョブズの伝説のプレゼンを分析した『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』は、「聴衆を魅了することにかけて世界一のコミュニケーターはスティーブ・ジョブズである」という一文から始まる。ソーキンが注目したのは、そんなジョブズのプレゼンであり、この映画は、彼が行った3つの新作発表会のプレゼン――1984年のMacintosh、1988年のNeXT Cube、1998年のiMacで構成されている。しかも、プレゼンそのものではなく、それぞれに直前40分の舞台裏が描かれる。

 プレゼンそのものはよく知られているし、You Tubeでも確認できる。私たちはそれらを踏まえ、直前の舞台裏を目撃する。そこでは、マーケティング担当のジョアンナ・ホフマンが、完全主義者ジョブズに振り回されながら場を仕切り、アップルの共同創業者スティーブ・ウォズニアックやジョブズを退社に追いやるCEOのジョン・スカリーが現われ、ジョブズと言葉を交わす。脚本は会話が200ページ近くに及び、登場人物たちは控え室や通路、屋外などへと場所を移し、会話を続ける。

 そこでまず注目したいのが、この映画が3幕で構成されていることだ。ジョブズはそのプレゼンで、3つのシーンや3つの機能など、3つの要素やメッセージで説得力を生み出す3点ルールを厳守し、聴衆を魅了した。先述したカーマイン・ガロは『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』をまとめるにあたって、「ジョブズが好んで行うプレゼンテーションのメタファー、3幕構成の演劇という形をとった」。この映画の構成もそれに倣っているといえる。

 では、この3幕構成では、なにが物語られるのか。映画の土台となった伝記にそのヒントになったと思われる記述がある。


「アップルから追放されたあとに創設した会社で、ジョブズは、良い意味でも悪い意味でも本能のおもむくままに行動した。束縛する者もなく、自由だった。その結果、華々しい製品を次々と生み出し、そのすべてで大敗を喫する。これこそがジョブズ成長の原動力となった苦い経験である。その後の第3幕における壮麗な成功をもたらしたのは、第1幕におけるアップルからの追放ではなく、第2幕におけるきらめくような失敗の数々なのだ」

プロフィール

大場正明

評論家。
1957年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒。「CDジャーナル」、「宝島」、「キネマ旬報」などに寄稿。「週刊朝日」の映画星取表を担当中。著書・編著書は『サバービアの憂鬱——アメリカン・ファミリーの光と影』(東京書籍)、『CineLesson15 アメリカ映画主義』(フィルムアート社)、『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)など。趣味は登山、温泉・霊場巡り、写真。
ホームページ/ブログは、“crisscross”“楽土慢遊”“Into the Wild 2.0”

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

再送米と「駆け引き」なら高関税、トランプ氏警告 最

ワールド

トランプ氏の機密文書持ち出し事件、米地裁が報告書公

ビジネス

インフレと金利は良好な状態、任期全うが基本方針=E

ビジネス

米ハイテク大手4社のAI投資、26年は6500億ド
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 3
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面を突き破って侵入する力の正体が明らかに
  • 4
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 5
    ペットとの「別れの時」をどう見極めるべきか...獣医…
  • 6
    揺れるシベリア...戦費の穴埋めは国民に? ロシア中…
  • 7
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 8
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    IMF、日本政府に消費減税を避けるよう要請...「財政…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 3
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 4
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 7
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 8
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 9
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 10
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story