コラム

アベノミクス論争は無駄である

2016年07月07日(木)11時12分

論点C)消費税8%引き上げの影響

 アベノミクスは成功したが、現在、景気がいまひとつなのは、消費税を引き上げてしまったことが要因である。すべての元凶は消費税8%への引き上げである。

 この議論については、当然正しい。消費税率を引き上げて景気がよくなる可能性はゼロである。駆け込み需要により、一四半期GDP増加率が急増する可能性はあるが、その反動減があるので、プラスになる可能性はゼロである。これは、すべての増税に当てはまる当然の理である。税負担があがれば、経済活動は縮小する。

 問題は、消費税を上げるべきであったか、否か、であるが、それは意見の分かれるところだ。

 ともかく、目先の景気拡大、GDPの増大を考えるのであれば、増税しない方が良い。長期的な財政の健全性を維持し、長期的な経済の健全な発展を目指すのであれば、現在の日本においては、増税したほうが良い。ここまでは疑問の余地がない。

 議論が分かれるのは、増税した方が、年金財政の健全性にプラスであることから、中年世代(特に50代で、退職後のことが念頭にあるが、まだ年金の受け取りが始まっていない世代)の消費に対しては、将来不安を減らすことから、むしろプラスである面もあることを、どの程度評価するか、ということだ。増税で将来不安を減らすというよりは、現在起きているのは、増税を何度も延期することで、むしろ将来不安が増えていることで、これが消費にマイナス、景気にマイナスで、消費税増税中止が意外と景気にプラスになっていないことである。

論点D)アベノミクスにより株価が上がったのか

 アベノミクスで経済がよくなったわけではないが、株価は上がった。これは事実だ。

 要因は4つある。

 1つは、世界市場がリスクオンに入り、世界的な株価上昇局面が始まっており、それが日本市場に波及してきた時期に、安倍政権が誕生したこと。タイミングが良く、世界の流れを受けたということだ。

 2つめは、黒田日銀による異常な金融緩和だ。これは投資家の度肝を抜き、予想以上に株価が上昇した。

 3つめが、アベノミクスによる株価上昇である。デフレ脱却という呪文が効いた。日本市場は総悲観論が蔓延していたが、悲観論の呪縛を解いたのが、この呪文だった。これこそがアベノミクスの成果、経済への影響を含めて、唯一の成果であると言っていいだろう。

 4つめがGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の日本株偏重投資への傾倒である。これも、安倍政権によるプレッシャーの結果であるという見方が一般的であり、それが事実であれば、アベノミクスがもたらしたもの、と言っていいだろう。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

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