コラム

ウガンダ選手の失踪は例外ではない──国際大会で「消える」アフリカ系アスリートたち

2021年07月23日(金)12時20分
ジュリアス・セチトレコ選手

2018年にオーストラリアで開催されたコモンウェルス・ゲームズに出場したジュリアス・セチトレコ選手  Next Media Uganda-YouTube


・ウガンダ選手の逃避行は偶発的なものではなく、アフリカ出身選手が国際大会で行方不明になる事件は近年多発している。

・そこには国際大会への参加が貧しい国を離れるチャンスと見る見方がある。

・ウガンダの場合、コロナ禍だけでなく、バッタの来襲や高齢の「独裁者」への絶望がこれに拍車をかけている。

五輪出場予定だったウガンダ人の失踪で日本は大騒ぎになったが、アフリカ人アスリートが海外で行方不明になることは珍しくない。生活の苦しさから国際大会を「国を出る」またとないチャンスとみるアスリートは多く、ウガンダはそれが目立つ国の一つだ。

レアケースではない逃避行

東京五輪に出場するため来日し、大阪の施設から行方不明になっていたウガンダ・チームのジュリアス・セチトレコ選手は20日、三重県内で保護され、翌日東京に移送された。

今回の五輪では海外選手の移動は厳しく制限されており、パスポートもチームが管理していた。失踪する際、セチトレコ選手は「生活が大変な国を離れたい」というメモを残し、名古屋まで新幹線で移動して知り合いのウガンダ人と接触したとみられている。

東京での取り調べに対して、本人は難民申請をしたい意向を示しているが、ウガンダ大使館は帰国させた。

ただし、今回の事件は偶発的なものではない。日本では免疫がないかもしれないが、アフリカのアスリートが海外で行方不明になることは、今や多くの国際大会でみられるからだ。

消えるアスリートたち

恐らくこれまでで最大規模のアスリート失踪事件は、2011年にサッカーの国際親善試合のためフランスのホテルに滞在していたセネガル代表チームが全員姿を消したことだろう。

そこまででなくとも、例えば2012年のロンドン五輪では、海外チームの21人の選手やコーチが行方不明になった他、82人が難民申請をした。その多くはアフリカの貧困国出身者だったが、それ以外にも大会終了後のオーバーステイも多発している。

五輪だけではない。2018年にオーストラリアで開催されたコモンウェルス・ゲームズ(イギリスおよびイギリスのかつての植民地をはじめとする各国で行われる総合競技大会)では、少なくとも11人のアスリートが失踪した。その内訳はカメルーン8人、ウガンダ2人、ルワンダ1人だった。

この大会には、今回のセチトレコ選手も参加し、重量挙げで10位の成績を残していた。チームメイトの失踪は、彼を触発していたのかもしれない。

ウガンダの状況はそんなにひどいのか

こうしてみたとき、失踪するアフリカ人アスリートのなかでもウガンダはとりわけ目立つ国の一つだ。多くのアスリートが逃れたがるほど、ウガンダの状況はひどいのか。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 6

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story