コラム

【ユダヤ教礼拝所銃撃】アンダーグラウンド化する白人至上主義──ネット規制の限界

2018年10月31日(水)13時00分

ヘイトクライムやヘイトスピーチが横行しているとはいえ、あるいは横行しているからこそ、アメリカでは人種、民族、宗派、性別などに基づく差別が社会的な制裁を受けやすい。これまで差別的な言動をしたTV番組の司会者やコメンテーターの多くは、どれほど人気があっても降板させられてきた。

TwitterやFacebookをはじめとするソーシャルメディアでも、ロシアなど外国政府の関与が疑わしいアカウントや、イスラーム過激派のアカウントと同様、ヘイトメッセージ常習者のアカウントは凍結の対象になっている。

つまり、投稿内容に関する規制がないGABは、Twitterなど他のサービスを利用できなくなった白人至上主義者にとっての拠り所であり、それは結果的にほとんどのネットユーザーを寄り付かなくさせていたのだ。言い換えると、ヘイト規制の強化が白人至上主義者を多くの人から隔絶した「自分たちだけの世界」に集まらせ、アンダーグラウンド化させたといえる。

GAB総攻撃は反トラスト法に抵触する?

シナゴーグ銃撃事件に関して、GABは「暴力を批判する」、「あらゆるメディアには犯罪者がいる」と主張し、自らの責任を否定した。

しかし、「白人至上主義者の楽園」GABは、事件をきっかけに他の情報通信企業から一斉に制裁を受けることになった。事件後、オンライン決済企業PayPalやStripeはGABのアカウントを削除し、AppleはGABアプリの販売を停止した。さらに、ドメインプロバイダーGoDaddyがサービス提供を打ち切ったことで、GABは停止に追い込まれた。

こうした集中砲火を受け、GABは「シリコンバレーの巨人たちの結託」で表現の自由が脅かされていると主張し、独占を禁じる反トラスト法に抵触するのではないかとトランプ大統領に向けて訴えている。

とはいえ、GABのラブコールが届くことは、恐らくない。

バウアーズ容疑者はトランプ大統領を支持していないと公言しており、GABユーザーの全てがトランプ支持者とは限らないものの、これまでGABはトランプ大統領の公式アカウントを作成し、Twitterから移ってくることを呼びかけてきた。

これに対して、トランプ大統領はTwitterやFacebookがみんな反トランプ派で、メディア企業が結託していると批判しながらもTwitterを使い続け、事実上GABの誘いを断ってきた。「白人至上主義者の楽園」とみなされるGABからメッセージを発することは政治的にリスクが大きいと判断していたのかもしれない。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 5

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story